10話 始まりの瞬間

「お疲れさまです。由美さん、栞さん。先程は騙してしまってすいませんでした」


 学院長室を出た僕達の目の前には、紗友里さんが椅子に座って待っていた。


「気にしていないので、頭を上げてください。それよりも、紗友里さんも私のことは知っていると思っていいんですよね?」


「ええ、それはもちろん。ねえさ……、学院長から事情は昨日のうちに聞いています。私もできる限り協力しますので相談してくださいね」


「お・ね・えさま? 何で紗友里さんを見てニヤニヤしているのでしょうか?」


 そう言って、僕の背中を栞がつねってきた。しかし、甘えているような力加減に余計頬がにやけてしまった。


「な、何でもないよ」


「お兄様、なんでさっきよりニヤニヤがひどくなってるんですか!?」


「ふふ、栞ちゃんたちは兄弟仲がいいですね。イチャイチャするのもいいですが案内する時間が無くなってしまうので寮に向かいましょうか」


「イチャイチャなんてしてません!」

「え、えへへ。……は!? イチャイチャなんてしてません!」


「ふふ、やっぱり仲良しですね」


 似たような反応をする僕たちを見て紗友里さんはにこにこと笑っていた。


▼ ▽ ▼


 アルトピアーノ寮に着いたら紗友里さんがポケットから鍵を取り出した。


「由美さんたちは201号室を使ってください。それと寮の詳しい説明については、また後日時間があるときにしますね」

 

 その後、寮の部屋に入ると僕はベッドに倒れ込んだ。そして、紗友里さんが寮への道中説明してくれた寮での食事とお風呂について考えることにした。食事は朝飯と晩飯は寮で出るみたいだが、昼は学食や弁当を持参したりしなくてはいけないらしい。実際、寮の子の大半が自分でお弁当を作るかメイドに頼んでいると紗友里さんは言っていた。

 

 (まぁ、食事については僕も栞も作れるし心配はいらないだろう。だがそうなると、風呂か……)


 寮の風呂に関しては大浴場があるそうだ。だが、部屋ごとにお風呂はなく、大浴場を使うしかないとのことだ。でも、普段は入浴時間が決まっているから「2人は他の子の入浴時間外に入っていいですよ」と紗友里さんが言っていた。でも、部活の子が時間外に入ったりすることがあるらしいので、いつ入るかが悩みの種である。とまぁ、ほかにもいろいろと心配事はあるが今はこんなところであろう。


 僕は一息つこうかと思い、ふと時計を見ると0時を超していた。そう言えば、栞が静かだなぁと思い隣を見ると栞はすでにベッドで動かなくなっているようだ。


 (きっと新しい場所で疲れたんだろう。栞は自分がつらくてもあまり口に出さないから僕がしっかりと見ててあげないとな)


 そんなことを思いながら栞の髪をなでると、だんだんと僕の意識も遠のいていった。


「おに……ゃん、つい……き……れてありがと……」


 意識が遠のく瞬間、そんな言葉が聞こえた気がしたが気のせいだろう。


 だって、……


 


  



 


 

 


 


 


 


 

 

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