8話 学院長室にて 前編
紗友里さんが僕たちを置いて行ってしまった後、隣で栞が戸惑ったように口を開いた。
「えっと、お姉様どうしましょうか?」
「……そうですね。取りあえず学院長室に行って、寮の件について聞いてみることにしましょう」
「ええ、私もそれが賢明だと思いますね」
(ふふ、こんな時でもお姉様で居られるようになったなんて、お兄様もだいぶお姉様に慣れてきたようですね)
そうして僕たちは学院長室へと向かうことにした。
「そう言えば、紗友里さんはなんて言ってたんですか? さっき耳元でお姉様に何か話されてたようですが」
紗友里さんからもらった地図を見ながら学院への道を歩いていると隣を歩いていた栞がそう問いかけてきた。
「頑張ってね、と一言だけ……」
栞はそれを聞くと思案するように黙り込み、「……わかりませんね。何を頑張ればいいのでしょうか」と言って学院に向かっている最中ずっと考え込んでいた。
▼ ▽ ▼
歩くこと数分、学院長室は入口を入ってすぐ右側にあった。
「お姉さま、大丈夫ですか? なんか震えていますが……、心配事があるなら言ってくださいね」
そう言って栞が心配そうに僕のことを見ていた。
「……えっと、通うって決心しといて今更なんだけど、ここにいる事が怖いんだ。それに今から会う学院長はきっと色々な人と接してきてるだろう。だから、僕の秘密もバレてしまうかもしれない」
「いいえ、お姉様なら大丈夫ですよ。私がいつでも傍に付いていますから。それにバレないために女の子の練習までしたじゃないですか♪」
そう言って栞は、僕を優しく抱きしめてくれた。
「後、僕ではなく私ですよ。しっかりしてくださいね、お姉さま」
そう言って栞は私から離れると、学院長室の扉をノックした。
「は~い、どうぞ」
返ってきた返事は穏やかな声だった。40,50代だろうかと思いつつ、僕は栞に続いて学院長室に入った。
「えっと、初めまして。私は姫宮由美でこちらが妹の姫宮栞です。来週の頭にアルーラ女学院に転入させていただくことになっています」
「ご丁寧にありがとう。私は学院長をやってる
(うっわ~、きれいな人だなぁ)
学院長と言えば、お堅い方や年配の方であると思っていた僕の考えは見事に外れた。40,50代だと思った声も近くで聞いたらおっとりとした優しい響きのある声で20,30代を思わせる。また、肩から前に流されているサイドポニーが良く似合っている。凛々しいというよりかわいらしい印象が強い方だった。
「寮の部屋を2人同じ部屋で申請していたのですが、違う部屋になっていて寮母さんに話したらここに行くようにと言われました」
「ちょっと待っていて、確認してみるわ」
そう言って由梨花さんは机から書類を出して確認し始めた。
「なるほどね。ごめんなさい、悪いのだけど数日は今割り振られた部屋でお願いするわ。手続きとかに少しかかりそうなの。幸い、由美さんのルームメイトの子は会長もやっているから色々聞けるし、苦労はしないはずよ。まぁ、あの子ちょっとレズっけがあるけどね……」
それを聞いて背筋に鳥肌が立った。
「えっと、入寮だけ遅らすことはできませんか?」
僕は反射的にそう聞いていた。このまま栞以外の女の子とルームメイトになると僕が男であることを隠し通すことはできないだろう。そうなってしまうといろいろとまずい。
「出来ますけど、どうして? 家具ももう運んでいますし、不満な点が有ればこちらで対応しますよ」
そう問われて僕には何と言えばいいのか分からなくなった。栞に助けを求めようと思ったが隣で栞も絶望的な顔をしていた。
「だ、だってレズっ……」
僕が返答に困っていると、学院長が「ふふっ」と笑っていた。
「からかってごめんなさい。実は私、本当のこと知っているのよ。和人くんに栞ちゃん」
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