7話 妹ちゃんと私の部屋

「これはすごいですね、お姉さま」


 僕たちは、アルーラ女学院の前まで来ていた。そこから入らずに30分ほど門の前で学院を眺めているのだ。まぁ、迎えに来てくれる方が遅れているらしく待っているだけなのだが。でも、30分も待たされていることを忘れるくらい、すごくいい眺めが目の前には広がっていた。


 そこから見えるのは、門から学園まで続く桜並木。そして、その奥から少しだけ見える西洋風の校舎はまるでおとぎ話の1ページと言われても信じてしまいそうな眺めである。


 そうして2人して黙ったままその光景を眺めていた。

 

「ねぇ、お姉さま」


 そう呼びかけてきた栞を見ると、悲しそうな顔でこちらを見ていた。


「どうかしたの、栞?」


「いいえ、やっぱりなんでもありません」


 何もないと言っている栞の瞳に1滴、涙が見えたような気がした。


 

 ▼ ▽ ▼



 それから、しばらく待っていると学校のほうから女性が手を降りながら歩いてきた。


「待たせてしまってごめんなさい。えっと、あなたたちが転入生の姫宮由美さんに姫宮栞さんでいいのでしょうか?」


「はい、私が姉の姫宮由美です」

「そして、私は妹の姫宮栞です」


「そうですか、私はアルトピアーノ寮の寮母をやっております美和みわ紗友里さゆりと言います。よろしくお願いしますね」


「えっと、寮母ですか?」

(お姉さんって感じがするんだけど……)


「はい、大学出てすぐここに就職したんですよ」


「ああ~、そうなんですね。って、私質問してましたか?」


「いいえ。ですが、寮母をやってると生徒さんが大体何が言いたいのかわかるようになってくるんです。まぁ、私の話は置いといて先に寮へ案内しますね」


 そうして歩くこと数分。学生寮らしき建物が見えてきた。


「着きましたよ。あれが、アルトピアーノ寮です」


「わぁ~、凄いですね」


「お姉様はこういう西洋風の建物好きですからね」


 そう栞が言うと、紗友里さんが手を合わせて嬉しそうにしていた。


「でしたらちょうどいいです。お姉さんの由美さんここの寮ですからね。では、寮の中は後にして次はフィオーレ寮を案内しますね」


 そうして、フィオーレ寮に向かっている途中、「そういえば、なぜフィオーレ寮も案内するんですか?」と栞が尋ねた。


「栞さんの入寮先だからですよ~」


 その言葉に隣の僕と栞は固まった。


「えっと、ちょっと待ってください。栞と一緒の部屋じゃないんですか? 確か、同じ部屋で申請していた筈なのですが……」


 僕がそう言うと紗友里さんは持っていた資料を眺めて、「あぁー」と頭を下げて申し訳なさそうに言った。


「…………違う寮になってますね。もしかしたら間違いかもしれないので学院長に直接確認に行って貰っても良いですか? 本来は私が確認に行くべきなんですけど……。この後予定が入っているので学院長室までは2人でお願いします」


 そう言って紗友里さんは学院長室への道を紙に書くと「頑張ってね」と僕にだけ聞こえる声で伝えて、通り過ぎていった。


 


 

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