6話 いざ、寮へ

 とうとう入寮の日がやってきた。朝起きて隣を見るが、栞はもういなかった。きっと朝食の準備でもしているのだろう。そう結論付けて、僕は制服に着替え、リビングへと向かった。

 

「栞、おはよう」

「あ、お兄様。おはようございます。もうちょっとで朝食ができるので顔でも洗ってお待ちください。 って、ちょっと待ってください、お兄様」


 朝食の準備をしていた栞が途中でこちらをちらっと見て、びっくりしたように固まった。


「ん、どうかしたか?」


「いえ、お兄様? もしかして女学院に入寮するのに男子の格好で行くつもりじゃありませんよね?」


 そうして僕は固まった。


「そ、そうだったな」


 僕は急いで自室に戻るとアルーラ女学院の制服に着替えてリビングに向かった。制服は着替えるのに少し戸惑ったが、昨日着た甲斐もあってか何とか一人で着ることができた。


「どっかおかしなところはないか?」


 そう聞くと栞は僕の周りを一回転して、僕の制服の背中のリボンを結び直した。

 

「うん、似合ってますよ。やっぱり制服とウィッグさえしていればメイクはする必要ないかもしれませんね。お兄様は肌がキレイですし」


「あれ? まだメイクしてないってわかるのか?」


「ええ、もちろん。私以外にはわからないと思いますが、いつもお兄様を眺め…いえ、見ている私からしたらかなり違いますよ」


「そういうもんか?」


「ええ、そういうもんです」


 (僕は栞がメイクしてるかわからないんだが、もしかして僕が疎いだけなのか)

 その後の朝食では栞の顔を時々みてみたのだが、メイクをしているかは僕には分からなかった。



 ▼ ▽ ▼


「では、行きましょうか。今からはお姉さまですよ。忘れないでくださいね、お兄様」


「あ、あぁ。わかったよ」


「ダメですよ、お姉様。女の子それもお嬢様でしたら普通、『あ、あぁ』なんて使わないと思います。『えぇ、そうですね』とかもっと落ち着いた言葉遣いにしてみてはどうでしょう」

 

 そう言って、栞は手をつないできた。


「えっと、栞さん? どうかなさいましたか、なんでいきなりお手を?」


 栞はふふっと笑っていた。


「お姉さま、それは丁寧すぎますよ。まるでメイドさんみたいで逆に違和感があります」


 そう言われて顔が赤くなった僕には繋がれた手について、もう一度触れる勇気はなかった。そして、久しぶりにちゃんとつないだ妹の手はすべすべとしていて、自分が男の子であることを実感させられたのだった。

 

 そんなことも相まってか僕の心の中は学院に着く頃には不安でいっぱいになった。

 

 



 


 

 

 


 


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