第8話

「何となくわかったんだけど、この魔法みたいなのは元に戻るの」

「戻るというと」

「夏休みが普通に戻るということ」

 西村君は笑顔で答える。

「先ほどから言うように、これはきっかけにすぎないし、一度過ぎた時間は巻き戻せない。もしも、この変化を望まないのであれば、行動で示さないといけない。だから、夏季休暇が終わる決定権は人間に与えられている。そして、忘れてはならないのが、きっかけは意図的に与えられたものだけれど、休暇を必要とするエネルギーは、満ち満ちていたし、それがいずれ世界を変化に導くことはあっただろう。しかし、人間というものは時に変化を怖がり、現状維持をよしとしてしまう。心では変革を望みつつも、停滞を選択してしまう」

「とにかく、元には戻らないんだね」

 西村君は言う。

「そう、元には戻らないし、法案の成立云々に関わらず、元には戻せない」

「わかったよ。とにかく夏休みを終わらせたいなら、この世界のルールに従わないといけない。だから、クラスみんなで話し合って休みを終わらせる日を決めなきゃいけないということだよね」

 西村君は笑顔で答える。

「そうだね、とりあえず今度の学級会でみんなが夏休みを終わりたいと考えていたら、夏休みは終わる」

 西村君は、それだけ言ってしまうと、ゆっくりと立ち上がり、かえっていってしまった。

 残されたカオルは、もう一度西村君が言っていた話を思い返していた。変な話だ。夏休みが延びたのは、法律を作るため社会実験だけど、それは西村君を名乗るエネルギーのせいで、夏休みを終わらせるにはクラスで話し合わないといけない。何だろう。とてつもなく雑なファンタジーだと思った。中途半端に魔法をかけてしまって世界を混乱に陥れて、僕は記憶が書き換えられなかった。ひどい。休みを取らせたいのなら、全員が休みたいと思う魔法をかけてしまうだけでいいのに。

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