第4話
九月一日は、夏はまだ続くぞと言わんばかりに、朝から暑かった。
カオルは六時に目を覚ますと、急いで顔を洗い、着替えを済ませて、朝食を食べた。ご飯をかきこむカオルを見ながら、母親は笑った。
「だから、今日も夏休みだって」
笑う母を尻目に、カオルは早々と食事を済ませて、ランドセルを背負った。
カオルは、今日が休みだということを未だに信じられなかった。テレビのニュースでは、今日から新学期が始まり、児童が登校をするので、運転をする際は気をつけるように、アナウンサーが話していた。夏季休暇日数適正化法の社会実験の対象クラスは、全国で五クラスだけらしい。だから、カオルのクラスは休みだが、学校そのものは始業式があるのだ。自分のクラスばかりが、休みが続くということだが、あまりにもうまい話ではないか。こんなことは決してない。あるわけがない。カオルは思っていた。
とりあえず学校に行ってみたら、何が正しいが分かるだろう。カオルは、学校へと急いだ。
カオルが通う東山小学校は、高台の住宅団地の中にある。山を造成して住宅地としたときに、同時に作られた学校だ。一時期は、千人を超える児童数を誇っていたが、ここ数年は六百人前後に落ち着いている。
通学路は、黒や赤のランドセルを背負った子ども達が、わいわいと話しながら歩いていた。ランドセルの色は、青や緑も販売されているが、ベーシックな黒と赤の人気は根強い。
誰が見ても、今日は夏休みなどではなく、通常の登校日であった。カオルは、やはり母親や日高君が間違っているのだと思った。もしも夏季休暇日数適正化法の社会実験の話が本当だとしても、カオルは休んでいてはいけないのではないかと感じた。
校門まで行くと、山田先生が立っていた。
「おはよう。久しぶりだな。元気していたか」
「先生おはようございます。えっと、今日から二学期ですね。今学期もよろしくお願いします」
カオルは、山田先生のあいさつがあまりにと普通であったので、年始のあいさつかのように、ぎこちなく返事をした。
「そうだな。でも、うちのクラスはしばらく夏休みが続くんだぞ。とりあえず十日の学級会で全員一致で承認されないと夏休みは終わらないんだ」
山田先生は、ハハハと笑ったが、カオルは全く笑えなかった。
「先生は夏休みじゃないの」
「まあ、学校の先生ってのは、子どもが夏休みだからといって、同じように休んでいるんじゃないんだ。研修もあるし、新学期の授業の準備もしなくちゃいけない」
「はあ、そうなんですね」
「とりあえず今日は、カオルのように間違えて登校してくる子がいないか、探していたんだ」
山田先生は、またハハハと笑ったが、カオルには、どこが面白いのか分からなかった。
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