エピローグ

母と子

 3月。私は高校を卒業した。

 

 校門では別れを惜しんで抱き合う子たちや、大学でも一緒に頑張ろう、と言い合ってる子もいた。

 スマホを取り出して写真も撮っていたかな。


 そんな子達の横をスタスタと歩き去り、家へと帰る。


 これからはもっとたくさんアイビーのことを見てあげられる。

 ふと気が付いたら、さっきまで歩いていたのに早歩きになっていた。


 1分1秒が待ち遠しい。

 早く彼女に会いたい。


 家の敷地に入り私の部屋の窓を見る。


 あ、アイビーが手を振ってくれてる!

 手を振り返す。

 嬉しいなぁ。


 急いで扉を開けて家の中に入って階段を駆け上って部屋の前につく。


 コンコンとノックして中からのはぁい、という声を確認してからガチャリと扉を開ける。


 「あ・・・・・・お母さん!お母さんっ!」

 

 わわっ、急に抱きついてくるなんて。


 今の彼女には首輪や足枷の拘束具はなにもしていない。

 そんなものは必要なく、今では彼女はこの部屋から出ずに私を待ってくれるようになった。


 「今まで寂しい思いをさせてごめんね?暫くはお休みだから一杯一緒にいてあげるからね。」


 手を伸ばして彼女の頭を撫でる。


 彼女がピクッと震え、恥ずかしそうに顔を伏せて目を瞑る。


 サラサラとしていてちょっと濡れている。

 ふわりとシャンプーの匂いがした。シャワーを浴びたんだね。


 「髪、ちゃんと乾かさなきゃだめだよ?」


 「んぅ、ごめんなさい。お母さんに早く会いたくって・・・・・・。」


 彼女の頬がほんのり赤くなる。 

 

 アイビーも私に会いたかったんだね。

 嬉しいよ。


 「じゃあ、私が乾かしてあげるね。ベッドに座って?」


 はぁい、と言ってベッドにぽふ、と座る。

 履いていたスカートがずれたのか、裾をつかんで引っ張ていた。


 引き出しからコードレスのドライヤーを取り出し、彼女の座っている方と反対側から膝立ちでベッドへ上がる。

 

 ギィと音がした。

 一人用のベッドだからかな。


 ドライヤーのスイッチを温風で入れる。

 ぶおお、と結構うるさかったので、会話ができるくらいの風量に調節する。


 「じゃあ、するね。」


 「うん、お母さん。」


 髪の根元あたりに風をあてて、わしゃわしゃと風が髪へ効率的に当たるようにする。


 やけどをしないように時折風の当たる場所を変えていく。


 「気持ちいい?」


 「うん。お母さんの手が頭に当たって気持ちいいよ。」


 「そっかそっか。もうちょっとだからね?」


 毛先を纏めて風を当てる。

 髪が傷まないようにこまめに風を移動させる。


 「ねえ、アイビー。」


 「なぁに?お母さん。」


 アイビーが首を動かして私の方を向く。


 「私の事、好き?」


 「うん!大好き!だってお母さんだもん!」


 屈託のない笑顔で私に言ってくれる。


 髪を乾し終わりドライヤーを止める。

 彼女の金髪が夕日に当たってキラキラと輝いている。


 彼女をぎゅっと抱きしめる。


 「私もだよ、アイビー。」


 その時、ふぁ・・・・・・と大きく口を開けて欠伸をする。


 温かくなって眠たくなっちゃったのかな?


 「ご飯の時間まで眠る?」


 私の言葉にん、と頷くと彼女はそのままベッドで横になる。


 私は立ち上がり彼女に布団を掛ける。


 「お母さん、ほっぺにちゅーして?」


 布団を鼻までかぶりジッと目でも訴えてくる。


 「お口じゃなくていいの?」


 「うん、お口は白雪姫に出るような王子様に取っておきたいんだぁ。」


 「そう・・・・・・なんだ。」


 頬にキスをする。


 「おやすみお母さん。」


 目を閉じてすぅすぅと寝息を立て始めた。


 ふと窓を見る。


 知らない女生徒二人が卒業証書の入った筒を片手に抱き合っている。

 身に着けている制服から、私の通っていた高校という事が分かった。


 夕日が眩しくて。


 そのカーテンを閉めた。


 部屋を速足で後にする。


 「私・・・・・・アイビーに何をして欲しかったんだっけ。」


 そんな事を茫然と考えながらキッチンへ向かった。

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