72話 真相
「なんか最近裏の生徒会などと呼ばれ、随分と偉そうな顔をしている部活がありましてね。私、生徒会長として由々しき事態だと思いまして対応を考えていたんです」
生徒会長、月宮葵先輩は仰々しい感じで話す。
……この人こんな感じだったっけ?
「そんな中ですね、クズ……失礼。楠奈さんが私たちに喧嘩を売るかのように盗撮に脅し。調べてみれば裏生徒会こと壁新聞部さんが黒幕と」
「……ごめんなさい」
「いいえ、大丈夫です。むしろ良いきっかけでした。丁度、当の生徒会が人手不足でして、えむあんどえー?でしたか。行うことにしました。どうやら権力というものを分かっていらっしゃらないみたいだったので」
「権力って……あ、すいません。話どうぞ」
「こっちは裏生徒会どころか表の生徒会が一度乗っ取られそうになったんです。内輪乗りの集団なんかに裏を取られる訳がありません」
なんか大変なことあったんだなぁと先輩の表情から察した。
「で、でも月宮先輩。……もし私がこの写真を壁新聞部に渡していたらどうしていたんですか? 先輩もこれはみんなに見られたくないですよね?」
「はい、当たり前です。でも心配には及びません。壁新聞部もとい生徒会広報部の顧問は谷口先生についてもらうことになりましたから。彼がそんな……は、破廉恥な写真の掲載を認める訳がありません。それに私たち生徒会は、彼の弱みを握っていますのである程度言うことを聞かせることができます」
谷口先生というとあの威圧的で筋肉質の男の教師だ。喋るだけでも億劫になるのにこの生徒会は、あの先生すら駒にしているってことだろうか。
「弱みって……」
「内容は話せませんが、私に加藤くん、飯田くん、教師陣にも生徒会顧問の夏草先生と証人がたくさんいますので、事件にしようと思えば簡単にできてしまう、そういう弱みです」
「…………」
どうやらこの生徒会は、思っていたよりも闇が深そうだった。裏生徒会どころか生徒会が裏って感じだ。
「谷口先生は、どうやら生徒会の顧問をやりたいみたいだったので、生徒会広報部の顧問に付いてもらうよう夏草先生よりお願いして頂きました」
にっこりとちょっと怖いくらいの笑みで生徒会長は言った。谷口先生には相当恨みがあるみたいだ。
「……じゃあ、私は……私はなんで」
そう、さっきからずっと疑問なのはそれだ。なんで私は泳がされていたのか。ずっと自分が彼らの弱みを握って上の立場を取れていると思っていた。けれど、実際はこの写真なんてなんの価値も無かった。私のことなんて無視してしまえば良かった話だ。
「私は分かりません。でも加藤くんが言ったんです。多分根は良い子だから生徒会に入れようって。私は知らなかったんですけど、前の文化祭の会議の時、あなたと話したって聞きました」
私は、思い出した。文化祭でクラスの代表で会議に出席したとき、金魚のフン先輩にちょっとした愚痴を話したことを。
「お姉さんが元壁新聞部の部長さんで、お姉さんに倣って自分も入りたいのに入れさせてもらえないと。生徒会でどうにかできませんかってあなたに言われたと加藤くんは言っていました。そして今回の件だったので、彼なりにあなたのことを考えたんだと思います。あなたがその写真をきっかけに部に馴染めるようにと――」
「――別にそんな風にしてなんて頼んでません」
あんなことで部活に馴染もうなんて私には無理だ。そもそも壁新聞部、お姉ちゃんのときはあんなんじゃなかった。
「はい、そうですね。ですから加藤くんもあなたが本当にその写真を利用するとは考えていなかったと思います。一応選択肢として残しただけで。彼の狙いは、裏切らない、クズじゃない仲間を作ることです」
「どういうことですか?」
「楠奈さんは壁新聞部は好きでも、壁新聞部の部員は好きではないですね?」
「……まぁ。姉が部長をやっていたときは、あんな暗い感じじゃなくて、もっと楽しそうでした」
「はい、近頃の壁新聞部は良くない方向に向かっています。近い内に対策が必要なのは生徒会として分かっていました。ですから――」
「――?」
「人材が欲しかったのです。今の壁新聞部をよく思わず、過去の良き壁新聞部を知り、かつ元部長の妹。相応しい人物は、あなたしかいません」
生徒会長は、ドンッと紙を私の前に置く。
「壁新聞部もとい生徒会広報部の部長をあなたに任せますっ!」
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