15話 なんだかんだ1日は24時間で終わる


「今日はたくさん遊んだね冬馬」


「そうだな……おっ、着いたみたいだよ。じゃっ加藤君と粧さん、僕たちはここで降りるから次は学校で」


「あぁ」


「香織ちゃん、じゃあね」


「桜子ちゃんも気を付けて」


 市ヶ谷と、桜花さんはバスを降りていった。


 二人がバスを降りる時、手を繋いでいたのは見なかったことにしてあげよう。仲良く爆発しろ。ドアが閉まるとバスは再び動き始めた。


 色々あって大変な一日だったがようやく終わりが近づいてきたようだ。今日は、ゲーセンの後、全員でご飯食べたり、屋上のテニスコートでテニスをしたり、サッカーコートでバブルサッカーをしたり、今までの俺では考えられない様な一日だった。


 だけど、なんだかんだ今日は楽しかった。勿論俺は、家でゲームしたり、読書したりするのは好きだが、やっぱり高校生なんだし体を動かさなきゃダメな気もする。最近体重増えてきたし。


 腕時計を見ると丁度八時をさしており、随分とあっちに長居してしまったことに気づいた。春も中盤に差しかかり日も長くなってきたと言っても、バスから見る外の景色は段々と暗くなっていき、今日が終わるんだなと思わせる。


 行きと同じ道を通っているはずなのに、違う道を走っているように感じるくらい、暗くなると少し田舎のここら辺は、雰囲気が変わる。


 修学旅行の帰りのような名残惜しさの中バスは、俺たちの目的のバス停に到着した。二人きりだからといって何かが起こったと言うわけでもなく、互いに無言でバスを降りる。外は風が結構吹いていて少々肌寒く、さっきまでいた暖かいバスの中が恋しい。


 駅の改札を通り、電光掲示板を見ると一分後に丁度急行が来るようだった。


 久しぶりにたくさん体を動かしたからか、俺の足はパンパンになっていて、ホームまでの降りの階段でさえも辛かった。


 電車が来て、入ると行きとは違って席は空いていて座ることができた。ホッとため息をつき、ふと隣の香織の方を見ると目が合った。お互いの間に気まずい時間が流れる。


「……今日、楽しかった?」


 数秒後、沈黙を破ったのは香織だった。


「そうだな……つまらなくはなかったな」


 楽しかったとか言うとまた同じようなことがありそうなので言わないでおく。


「いやー、やっぱり栄君は捻くれてるよね」


「俺は思うんだよ。みんなが捻くれてるからこそ、真っ直ぐである俺が捻くれて見えるんじゃ無いかと……」


「それは……無いね。って言うかその発言がもう既に捻くれてるよ」


「……そうか」


「私は、楽しかったよ。桜子ちゃんとも仲良くなれたし……それに。栄君とも色々話せたしね」


「……そうか。じゃあ俺も楽しかったってことで」


「それで良し」


 納得してくれたようだ。


 そんな風にくだらない話をだらだら続けているうちに俺たちが降りる駅に到着した。


「降りようか」


「うん」


 俺たちは、電車から降りて次はホームから、出口に向かって階段を登る。改札を抜けるともう九時前まで時間は進んでおり、この時間に女の子を一人で帰らせるのはアレなので近くまで送ることにした。俺の家と方向がほとんど同じなので特に苦では無い。


 駅から出ると、近くに飲食店やカラオケなどがあるからか、そんなに静かでもなく賑わってるようだった。駅から離れていくとそういう店も減っていき、住宅街へと景色は変わっていく。


 今の俺たちを誰かに見られたらどうしようなどと、少し緊張しながらも互いに無言で歩いていく。そんな風にしているうちに駅からは随分と離れ、家まであと少しのところまで来た。


「栄君、ここまででいいよ」


「大丈夫か?」


「うん、大丈夫。もう十分もかからないくらいだし」


「そうか、じゃあ気をつけて」


 俺はそう言って背を向ける。


「ああやっぱり待って」


 そう香織に引き止められる。


「なに?」


「あのさ……えっと」


 香織に呼び止められる。何かを言いたそうにモジモジしている。


「まだ何かあるのか?」


「えっとその……また今日みたいに遊べるかな?」


 香織は耳まで真っ赤にして言う。


「俺は全然。むしろ楽しかったしまた遊べたらいいなぁって……」


「そう……なんだ……」


「…………」


「あ、あのさ。いきなりなんだけど私、もうバレバレかもしれないけどその……栄君のこと……えっと……す、好き、みたいな感じだからその……よ、良かったらまた誘ってほしいというかなんというかその……」


 香織は、後半に向けてどんどん小さくなりながらそう言う。


「す、好き……俺を?」


 何を聞き返しているのだろう。正直察していたことだろう。でもまさかこういきなり言われるとは思っていなかった。いきなりの自体で俺の脳がオーバーヒートを起こしている。


「うん……ずっと前から」


「そう……なんだ」


 そのまま無言の時間が流れてしまう。これってどんな返答が正解なのだろう。


「……その俺も、香織のことが好き……だと思う」


 正直なことを言っておくことにした。


 まだ自分の中でも整理しきれてないせいか、最後がはっきりしない答えになってしまった。


 昔多少仲が良かっただけで、年数がかなり空いてるし高校に入ってから、ほとんど話してなかったのだ。もう少し段階を踏もうと考えていた。


「『思う』ってどういうことなの?」


 香織は、さっきとは違っていつものような軽い感じでそう聞いてくる。


「まだ、自分でもよく分かってない……のかも知れない。まだ、久しぶりに話したばっかりだし」


 また、曖昧な答えになってしまった。実際、香織と付き合うだとか具体的なイメージは何もしていなかった。


「えーじゃあまだ私の片思いってこと?」


「……なんかまだ理解しきれてないというかなんというか……」


 ここまでテンパると頭が回らないのかと自分に呆れる。


「まぁ、また今度話そうか」


「……ごめん」


「別にいいよ。それでこそ栄君って感じだから」


「……そうか」


「じゃっ! もう夜遅いから私はもう行くね」


「あぁ、気を付けて」


 そう言って、香織を見送り俺はまた随分と暗くなった道を街灯を頼りに自分の家に向かった。どこか浮ついた気持ちで、だけど自分が自分でないようなそんな感覚があった。


 また自分が昔に戻ったというか、香織を前にすると自分の中心にあったものが何か違うものに変わってしまうような、そんな気分になる。でも、そんな気分もいいなと今の自分は思った。


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