14話 VSイケメン
「わー香織ちゃんボーリング上手だね」
「ありがとうございます」
「桜子、お前は下手すぎだ」
「私にはこれ重すぎなんだよ」
「じゃあ、変えてこい。お子様用があるだろあそこに」
「お子様用かー。まーいっか。じゃあ、変えてくるねー」
「次はー……加藤君だよ。男同士どっちが上手いかここは勝負だな」
どうしてだ。どうしてこうなった。俺に落ち度はないはずだ。いきなりのデート(?)だった割にはうまく立ち回れていたはず……。
しかし、現在俺は最悪な状況にある。ここは、米に言われた通りやって来た複合施設。だけど、問題は起こった。問題なのは本来いるはずではない二人がいるということ。バスで偶然会ってしまった市ヶ谷冬馬と桜花桜子と一緒に遊ぶことになってしまったことだ。
誰のせいだだろうか。誰のせいでもない。俺は自問自答を繰り返す。そこで俺は気づく。これは、必然。そうなる
いや、待て待て、ピンチすぎて中二病が再発している。しかし、そんなことで今悩んでいる暇は無い。
早くやれと、背中を市ヶ谷に叩かれてしまった。やっぱり距離のつめかたが苦手だ。まぁとりあえず、目の前の試練を超えなければ。その試練とは、ボーリング。正直やってる人なんて陽キャ学生集団とガチ勢お婆ちゃんしかいないと思ってた。
さて、どうするか。ここは、まぁ普通に半分くらい倒しておくのがいいだろう。俺は、男性が使うにしては軽めのボールに指を入れて持ち上げる。右手で持ち、左手は添えるだけ……いや、左手いらねぇな。
俺は、集中力を最大限まで引き上げ四歩程助走をいれてボールを投げる。いつかテレビで見たフォームをイメージして。
ボールは、ピンに向かって転がってい……かず、ガター。
「……」
俺は、無言で自分がさっきまで座っていた場所に戻る。
「ドンマイ、ドンマイ」
市ヶ谷は、励ましてくれる。逆に惨めなんだよなそーゆーの。
「加藤君。早く二投目、二投目」
ああそう言えば二回投げるんだ。ボーリングとかやらな過ぎて忘れてたよ。まぁ、次こそはちゃんと倒そう。さっきは、半分倒しとこうとか変なこと考えたせいでガターだったんだ。ちゃんと投げれば、何本かは倒せるはず。
俺は再びボールを持つとピンの真ん中を狙いさっきより力を入れて投げる。ボールはどんどん転がっていく。左に。転がったボールは、左端のピン一つを倒して見えなくなった。
点数が映っている画面を見ると、市ヶ谷のところには、ストライクのマーク。桜花さんのところには、ガターのGと3。香織のところには5とスペアのマーク。そして、俺のところを見るとGと1。まだ一回目だが、早速俺はビリだ。
俺は、再び自分の席に戻る。
「栄君ってボーリング下手なの?」
隣に座る香織からもなんか残念そうな顔で聞かれた。
「実は……ボーリングめっちゃ久しぶりで」
まぁ、これで充分な言い訳になるだろう。
「えっ、それは私は今日初めてやったけど」
「え、本当?」
「うん」
マジかよ。じゃあ、俺ってセンスなさすぎじゃん。
「俺、ボーリング向いてないな……」
「まぁ、気にしないで。誰にも、苦手なことはあるから、ね?」
そんな優しい言葉が、さらに俺のライフを削った。
※ ※ ※
なんで、こんな状況になってしまったか。それは、自分のせいでもある。俺達と同じところに行くということが分かり、市ヶ谷&桜花は、「一緒に行こう!」と言ってきたのに対し、それを当然コミュ障ペアが断ることもできずこうなってしまったのだ。
「次はどこ行く?」
そう言ったのは市ヶ谷。
ボーリングは散々だったから運動系はやめてほしい。ボーリングが運動系かどうかは知らんけど。
「ゲーセンはどう?」
桜花さんが言う。桜花さんがゲーセンに行きたいなんて意外だ。
「いいね、加藤君と七瀬さんはどう?」
「私も行きたいです」
何故か香織はめちゃくちゃ乗り気だった。
「加藤君は?」
「あぁ、俺も」
俺も、ゲームだったら人並みにできる。
「おしっじゃあゲーセン行くか」
市ヶ谷に続きエレベーターを使って一階にあるゲーセンに向かう。館内は、かなりの混雑でゲーセンも当然混んでる予想された。一階に着くと、予想通りの混雑といろんなゲームの音が混じった爆音によってゲーセンは、カオスを極めていた。
「やっぱりゲーセンはこうじゃないとね」
そう言って桜花さんは見た目とは裏腹に指をポキポキ鳴らして気合満タンのようだ。市ヶ谷と香織も同じくやる気に満ち溢れている。ゲーセンイベントってぼっちの独壇場じゃないのかよ。
「ねぇ、あそこの踊るやつやらない?」
桜花さんが指をさした先にあったのは、下にパネルがあり、その上で踊るゲームだ。
「僕は……やらないかな」
「俺も」
「えぇー。じゃあ香織ちゃん、一緒にやらない?」
「……うん。私もやってみようかな」
「おしっ、じゃあ行こー!」
女子二人がやりに行ったので、俺と市ヶ谷は、後ろの見える位置に行くことにした。ゲームが始まると、周りに人が結構いるのにもかかわらず、結構マジで踊りはじめた。二人ともなんか上手い。
しかも、周りには二人のルックスがいいこともあってか、少し人が見に集まっていた。っていうか、これなんか彼氏ヅラしてるみたいで自分が嫌になる。
それに対して、隣の市ヶ谷はなんか様になっているのが不思議だ。
「それで加藤君。粧さんとはどういう関係?」
唐突に市ヶ谷にそう聞かれる。
「別にその付き合ってるとかじゃなくて友達……というかなんというか」
「でも栄君って呼ばれてるしほとんどそういう関係なんじゃないの?」
「それは、そのあだ名みたいなもんだから」
「ふーん。まいっか」
そんなことを、話しているとゲームの方もクライマックスなのか、香織と桜花さんは、髪を左右に揺らしながらそこそこ激しく踊っていた。女子だし髪の毛とかメイクが崩れるとか言ってこういうのはガチでやらないイメージだったが二人ともそういうタイプではないらしい。
二人はゲームが終わり俺たちの方に向かってくる。ゲーセン自体が、かなりの温度と湿度だからか、二人ともそこら辺の水道から出てくる水より綺麗そうな汗をたくさんかいている。
「やー久しぶりに踊った、踊ったー」
「私はもう疲れました」
まだまだ元気な桜花さんとは対照的に香織は随分と疲れている。
「香織ちゃん? タオル使う?」
「あ、ありがとうございます」
そう言ってタオルで汗を拭く姿は何故か色っぽい。しかも、二人で同じタオルを使うとかもう百合だろ。
「じゃあ次はさ、あのゲームやらない?」
そう言って市ヶ谷が指差した先にあったゲームは、太鼓型の音ゲーだった。
「えーあれ私すごい苦手」
「私も多分出来ないかなぁ」
女子からの反応はイマイチ。
「えぇ、やりたいの僕だけ?」
多分、市ヶ谷は得意なんだろう。ちょっとかわいそうに見えてきた。
「じゃあ、俺もやるよ」
「お! 加藤君。じゃあどっちが上手いかで勝負はどう? わざわざやりたいって言ったってことは得意ってことでしょ?」
ボーリングの時もそうだったが、市ヶ谷勝負好きすぎだろ。どんだけ俺のことボコしたいんだよ。お前なんて歩いてるだけで勝者だろうが。まぁ、負けるとしても良い勝負に見えるくらいにはできるだろう。
「何か探してるのか?」
「うん。……おしっ」
市ヶ谷がそう言って取り出したのは、『マイバチ』だった。
「市ヶ谷、お前ってそんなにこのゲームやり込んでるの?」
「まぁね」
ドヤ顔で言いきる市ヶ谷の辞書に謙遜と言う言葉は無いのかと思っていると、早速ゲーム機に二百円を入れて始める。
「頑張ってね、冬馬」
桜花さんはそう言って市ヶ谷を応援する。恋する乙女は可愛い。ゲームが始まると、やっぱりと言うべきなのか最高難易度の曲を当然のようにノーミスでプレイしていく。
不意に隣の香織に袖を引かれた。
「市ヶ谷君、上手すぎない? 栄君勝てる?」
心配してくれているようだ。別に負けたところで、「市ヶ谷君上手〜はーと」ってなるだけだろうから、負けても大丈夫だと思うが影の道を歩む者として主人公様にゲームで負けるなんて俺のプライドが許さない。嘘、やっぱり自分に甘い俺のことだから許す。
「まぁ、大丈夫だよ」
市ヶ谷は、やり終えると俺の方を見てニヤッと笑みを浮かべる画面にはミスの回数のところにゼロと出ていた。
「さて、次は加藤君だよ。それと、負けた方は相手の言うことを一つ聞くってことで」
「おい、自分が上手く行ったからって後から増やすのは無いだろ」
「冗談だよ、冗談。まぁ、頑張って」
そう言って、もう負けることはないと思っているのか、俺の肩をポンポンとやってくる。そういうのは、女の子の頭にして下さい。
「言われなくても頑張るよ。それと市ヶ谷、そういうのを負けフラグって言うんだよ。主人公だったら、そのくらい覚えとけよ」
市ヶ谷に少しイラつきながらも俺はゲーム機にお金を入れる。俺は、マイバチなんて物は持っていないので、元々置いてあるバチを手に取る。曲を選ぶ画面になると、俺は市ヶ谷と同じ曲を選んだ。
「残念だったな、市ヶ谷」
「どうしたんだ加藤君」
「市ヶ谷、負けた方が相手の言うことを一つ聞くだったか。いいよ、それでやろう」
「えっ?」
桜花さんは驚きの声を出す。なんで俺がこんなことを言ったか分からないようだ。
「……やっぱりか、加藤君。君は何か隠しているように見えたんだよ、さっきから」
しかし、市ヶ谷は苦笑いをしながらそう言ってきた。やっぱり、なんとなく分かっていたと言うことか。でも、負けた方が一つ言うことを聞くって言い出したのは市ヶ谷だ。ここで、俺がそれで良いって言い出したんだから、この状況でそれに乗らないのはおかしい。
「まぁ、さっき自分から言ったんだから、そのルールでいいな市ヶ谷」
「……いいのか? 一応僕はフルコンボしたよ」
「あぁ、大丈夫だ。精度で勝つ」
俺は、そう言い放ちバチを握り直しゲームを開始した。
※ ※ ※
フルコンボだドン! クリア〜! 大成功だドーン!
太鼓に手足の生えた謎の四足歩行の動物が言ってくる。
俺は、結局緊張して危ないところもあったが市ヶ谷以上の精度でフルコンボ出来た。
俺が、ここまで出来たのも、普段から米に付き合わされてゲーセン行くことが多くて、暇つぶしにこのゲームをやり込んでいたからだ。まさか、こんな場所でカーストトップの市ヶ谷を打ち負かすのに使えるなんて米に感謝だ。
これで俺は勝利の凱旋をするわけだが……
「え……」
「栄君……」
しかし、後ろを向くと桜花さんと香織は若干顔をひきつらせながら絶句している。
なんかそんな気がしてた。俺は米から聞いたことがある。もし、デートとかでゲーセンで音ゲーする時は、少し難しいくらいの曲を少しミスしながらやると良いと。ガチでやると引かれるとか。
まぁ、そんなこと今の今まで忘れていたわけで米のアドバイスも無意味となってしまった訳だが。それにしても、市ヶ谷も引くぐらい上手かったのに、俺の時だけその反応とか不平等すぎる。
でも確かに音ゲーうまいやつってアレだよな。わかってるんだよこっちだってそんくらいね。
でもやっぱり、やるってなったら本気でやりたいし。それはスポーツ頑張ってるやつと同じ美しいものだと思うんだ。だからさ、そんなに引かないでくれよ。
「俺の勝ちでいいよな、市ヶ谷」
取り敢えず勝ち負けは、はっきりさせておかないとならない。
「……あぁ、それにしてもここまで上手いとは……」
本当にできるとは思っていなかったのか、驚きを隠さないでいる。
「買いかぶるな。出来るのはゲームだけだ」
俺は、言い終わって後悔する。これじゃ、完全イキってるって言われるやつじゃないか。
アレだ、陰キャは褒め慣れてないから変につっぱねてイキってるように見えちゃうだけだから。別にカッコつけてるわけじゃなくて、ただの謙遜なんだよ。めっちゃ純情。
モンスターなりに人間に頑張って好かれようとした結果なんだって。
自分の中でそう言い訳するも逆に気持ち悪さを感じて自己嫌悪に陥る。
俺は、ゲームで勝つことが出来たが、リアルでは負けるのだった。イケメン強すぎ。
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