第7話 ゲームの本質
テレビではよく、刑事もののドラマなどで死ぬシーンを観る。画面越しの死は、どこかリアリティがなかった。
しかしこれは違う。人が二人、本当に目の前で死んでしまった。
火薬と鉄とほこりっぽいにおいが入り混じる。風が吹く度に目をこする。夢ならば醒めろ。
「ふー、危なかった」
煙の中からミラが銃を肩に乗せ、こちらに歩いて来た。灰色に浮かぶ赤毛は、とても目立つ。ミラは俺を見ると、嫌そうな顔をした。
「何? アンタのその顔」
「大丈夫ですか?」
龍明が俺の後ろからひょっこり顔を出した。ミラも龍明も体中ボロボロで、出血もしている。一目で激戦だったと分かる。
もし俺があの時アリアを殺していなければ、きっと俺達が死んでいただろう。
だから、だから―――。
仕方ないよな?
「生きてたのね。アンタも」
「ええ。貴方のお陰です。有難うございます」
龍明が軽く頭を下げ、双剣を拾ってくれた。受け取りながら、俺はぼんやりと思った。
―――人を殺してお礼を言われるなんて、夢にも思わなかった。
「でも………胸を貫かれたのにどうして?」
「えっアンタやられたわけ? 弱いわね~」
「いえ、僕じゃなくて彼です。確実に刺されていたはずなのに……」
「傷すら無いわよ?」
ミラがじろじろと俺の胸を見る。時折さすられたりするが、どこにも穴はない。俺にもわけが分からない。
どうして俺は生きている?
『この双剣の力よ』
双剣の力? そういえばまだ聞いてなかった。ミラは超火力、大男は身体能力向上、そして俺の双剣は……。
『この武器は治癒能力を持っているの。アナタの為に用意された特注よ』
俺の為の武器―――? 俺が無力だから、傷を癒す力を与えたというのか―――?
――――――ふざけんな。
「アンタさっきから暗いんだけど」
「どうかしましたか?」
ミラは嫌なものでも見たような顔をし、龍明が心配そうに見る。まるで今まで何事もなかったかのように。二人共、遠くの存在のように思える。
だからきっと―――。
「―――ゲームとか、いい加減にしてくれ」
こんなに苛立っているのは、俺だけだろう。
「なんなんだよ、こんなゲーム―――殺し合わなきゃいけないルールでもないのに」
沈黙。ミラも龍明も目を見開いていた。
しかし、次の瞬間には爆笑が響いた。
「アッハハハハハハ! アンタ面白いこと言うわね!」
ミラはお腹を押さえて笑った。体を折ってまで大爆笑している。龍明はそんな様子を凝視していた。
「殺し合わなきゃいけないルールじゃないって……! 武器まで支給されてんのにっ……! 殺し合えって言ってるようなもんじゃん! アッハハハハハハハ!」
ミラは笑い疲れると、涙を指で拭った。満面の笑みで俺を見る。瞳は黄色い光を放った。
「アンタ、馬鹿正直ね~」
「ミラさん、彼はきっとこういうことに慣れていないのですよ」
「いや、こんなの慣れとか関係ないじゃない!」
ゴロゴロと空が鳴った。日差しがなくなり、辺りが薄暗くなってきた。雨のにおいがする。
「で? 嫌になっちゃったの? 馬鹿正直な双剣くん?」
「まあ嫌になるのも無理ないです。僕だって、なるべくなら誰も殺さずにゴールしたかったんですから」
「よく言うわねアンタ。コイツ助ける為に一人殺したくせに」
「殺されそうな人を助けるのが僕の主義ですから」
こんな人間ばかりが参加するゲームに、一体何の意味があるというのか。新メンバー一人をスカウトする為に、どうして大勢が死ななくちゃならないんだ。
『それはアナタが口出し出来ることじゃないわ。ここにいる人間はアナタを除いて、殺し殺される覚悟を持っているの。たとえ武器が支給されなくても殺し合っていたはずだわ』
馬鹿なこと言うな。そもそも、こんなゲームを行わなければ犠牲者が出なかったはずだ。
「でも本当に、三人でゴールして報酬を貰えるんですかね? これでダメでしたら……」
「たしかに一番に着いた奴が報酬を貰えるって言ったけど、一人にだなんて誰も言ってないでしょ?」
だから俺達は、争わずに協力している。仲間が多い方が生存率は上がる―――至極まっとうな論理だ。
そう―――だから俺は、そんなことをしなければならないルールそのものにイラついているんだ。
『―――イライラ出来る暇なんて、ないわよ』
この双剣は、何言って――――――。
「……………え?」
――――――赤が、飛び散った。
頬に血がこびりつく。目の前で起きた状況に追いつけなくて、頭が混乱した。
龍明の胸に、ナイフが突き刺さっている。
そしてそれを持っているのは、ミラ・L・クラウレス。
「なん……で……」
龍明が後ろに倒れる。何が起きたか分からない、というような表情で、口をパクパクと動かしている。しかし声は途切れ途切れで、全く伝わってこない。
ミラが龍明に、もう一本ナイフを突き立てた。鋭い刃は、彼の喉を貫いた。龍明が動かなくなる。
「味方になれば、警戒心は解けるでしょ?」
返り血を浴びたミラは、俺に銃口を向けた。俺はすぐさま横に跳んだ。前転をして起き上がる。双剣を構えた。
「ハハッ! 撃つと思った? こんな近くで撃つわけないじゃん!」
ミラが銃口を地に立てる。直後、幸か不幸か、大量の雨粒が降ってきた。ミラは舌打ちをした。
「雨か………まあいいわ」
「………俺を殺すのか?」
「ええ。もちろん」
報酬なんて、興味ないの。
――――――私、殺すの大好きだから。
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