第5話 “さん”
いつからなのかは覚えてない。でも、私に居場所をくれた3人はいつの間にか私のことを鈴川さん、ではなく鈴川と呼んでくれるようになっていた。今までさんづけだったのがさんがつかなくなっただけでこんなに嬉しいのかと思った。空気でしかなかった私の存在が初めて認めてもらえた気がした。ここに居ていいという証のようで嬉しかった。
それに…
「鈴川、置いてくぞー」
「ち、ちょっと待ってよ…!」
私は今まで頷いたり首を振ることしか出来なかったが、少しずつ彼らと会話できるようになっていた。
私と帰り道が同じ方向の桂と篠宮は私をからかったりしていたけど…そんなことですら嬉しく感じた。
「ほら」
帰り道の途中にあるたい焼き屋さんのたい焼きを篠宮が奢ってくれた。友だちから奢ってもらうなんてこと初めてだったから、驚いたけど「あ、ありがと…」
と、思わず零れたけどきっと私の声なんて小さすぎて聞こえなかっただろうな。
「お前、俺のたい焼き食べないなんてことないよな?」
「た、食べるって…!」
なんでもない会話がこんなに楽しいとは知らなかった。無闇に人を嫌って人なんてと蔑んできた自分が嫌になった。
私の踏み出したこの1歩がどうなるかは全く分からない。でも、もう少し…この時間が続いたらいいな、なんて。
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