私達は安易に幸福をつまみあげる
ずっと昔のことだけれど、人形を踏み潰したことがありました。みすぼらしい人形でした。誰も価値を認めてやいないだろう人形でした。私が踏みつけると周りの子も笑いました。楽しかった記憶だけが残っています。
今日はとてもいい天気ですね。公園のベンチに座っていると話しかけられました。そうですねと私は答えます。砂場ではこどもたちが遊んでいて、どんな遊びなのかここからじゃもう全くわからないけれど、きっとこどもたちにとっては楽しい遊びなのでしょう。こどもたちは笑っています。
今日はとてもいい天気だから何もかもが平和であるかのように錯覚してしまいます。こどもたちが遊んでいて、ずっと昔のことだけれど、私も人形で遊んでいたのです。幸福が何か知っているでしょうか。幸福とは、虐げられないことだとあの人は諭しました。考えるべきことは、罪や罰などではなく、夕飯の献立や午後9時から始まるテレビドラマのことで十分であり、過去なんて並べられた腰かけでしかないのです。
たとえば、ずっと昔の出来事が今更こんにちはと顔を出したところで、話し合う義務も必要もなく、そんなことよりスーパーの安売りについて労力をさくべきであり、楽しいから楽しく、幸せだから幸せであればいいのであって、後ろを振り返ってみたところで、それが何か有益だなんてことはないのです。
夕方になったので、今日はとてもいい天気ですねを無視して、娘の手をひいて家に帰ります。まだ明るい世界。顔なんて最初から覚えてません。
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