第50話
「ああ」金太にはノッポの返事がえらくそっけないように聞こえた。
小屋のなかに沈黙がどれくらい続いただろうか……。
「みんな、残念だけど携帯が壊れて向こうに行くことができなくなってしまった。でもまだ可能性がなくなったわけじゃない。充電さえできれば、またみんなでおはるちゃんに会いに行こう。もし充電器が見つかってうまく作動するようになったら連絡するから、きょうはこれで解散としよう」
いまの金太にはそういうよりなかった。左手に強く握られた傷だらけの携帯――これが動かなければどうすることもできないのだ。
「しょうがないから、あたし帰ることにする」
愛子は着て来たTシャツとショートパンツに着替えると、「それじゃあ」といって帰って行った。
「ぼくも……」
余程楽しみにしていたのだろう、精気を失った表情で肩を落としながらネズミも小屋を出て行ってしまった。
金太とノッポは、相変わらず蒸し暑い小屋に残って携帯をバラし、なんとかしたいと懸命に奮闘している。
しばらくしてノッポが、バラバラになった携帯を組み立てはじめた。
「だめやね。やっぱバッテリーばなかけん、どうにもならんト。金太、諦めんネ。ぼくも一応ネットで探してみるけん、きょうのところは帰ろ」
無理だとわかった金太は、携帯電話に目を落としたままちからなく頷いた。
しかたなく家に戻った金太は、すぐにパソコンを立ち上げて電池パックや充電器の情報の有無を調べる。さっきノッポが検索してくれたのだが、どうしても自分で確認をしたかった。もしなかったなら、電話機のメーカーにメールでたずねてみようと思う。それでもだめなら藁をも掴む気持で秋葉原まで行ってみようとも思っている。
やっぱりノッポと同じで、インターネットからの情報は得られなかった。
金太はがっかりしながらベッドに躰を投げる。頭の後ろで手を組み、天井を見たまま考え事をはじめた。
(おはるちゃんは、いま頃オレたちが来るのを待ち望んでいるに違いない。だがいまでは連絡のしようがない。すべてオレのせいなんだ。オレさえちゃんと携帯の管理をしていればこんなことにはならなかった。せっかくみんながプレゼントを渡そうと楽しみにしていたのに……)
金太は、ひょっとして二度とおはるに会えないと思うと、じっとしていられなくて何度も寝返りを打った。
1週間して、金太はひとりで秘密基地の机に向かって座っていた。
この7日間に秋葉原のショップを何件も回ったり、メーカーに問い合わせをしたりしたが、どれも無駄に終わった。金太は、これ以外の手立てを見つけることはできないでいる。
いまとなっては、手紙も、メールも、電話も、さらには直接会って伝えることも、すべてが泡となって消えてしまった。
金太は、この夏休みがこれまでになく楽しいもので、中学最後の思い出の夏休みになるものだと信じていた。ところが諦めざるを得ないと思いはじめると、なにかに手足をもぎ取られたようなもどかしさと悲しみが躰を震わせるのだった。
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