第49話
「ああ、おみやげチェックが無事すんだから、そろそろ着替えをして出発しようか」
金太は、クッションがはみ出している丸イスから立ち上がった。
「あ、ちょっと待って、ぼくおしっこしたくなっちゃった」
この期に及んでネズミは生理現象を訴える。
「しょうがないなあ。じゃあついでにオレも」と金太。
ふたりが小屋の外に出ると、黙ってあとを追うようにノッポも外に出た。
しばらくして3人がそろって戻って来ると、
「アイコは、小便しなくていいのか?」
金太はすっきりした顔で愛子に訊く。
「ったく、信じらんない。これでもあたしは女の子なんだからね」
愛子は唇を尖らせ、眉根に皺を寄せて金太を睨んだあと、ぷいと横を向いた。
着替えをすませると、金太はちからを込めて号令をかける。
「さあ、いよいよ出発です、みんなこっちに集まって」
金太は大事なものを扱うように机の引き出しから傷だらけの携帯を取り出した。みんなの視線はそこに集中している。そしておもむろにボタンを押しはじめる。
「あれっ?」
金太はみんなに聞こえないような小さな声でつぶやいた。
そうはいっても近くに集まっている3人だから聞こえないはずがない。いっせいに3人の顔が曇った。
もう1度、さらにもう1度、金太は額に汗を浮かべてしきりにボタンを押し続ける。
どうやら携帯の具合がよくないらしい。
「金太、どげんしたト? 携帯ば壊れたト?」
ノッポは金太の横から心配そうに覗き込んだ。
「うん、おかしいなあ。こんなはずないのになあ」
金太はしきりに小首を傾げる。
「ちょっと貸してみんネ」ノッポは携帯を受け取ると、何度も電源の入り切りを繰り返してみる。「これ、だめやね。バッテリーば切れとお」
「なおらないの? だってこれがないと向こうに行くことができないじゃん。行けないってことはこのプレゼントも渡せないってことよね」
目を細めて残念そうな顔でいった。
「だったらバッテリーを替えればいいじゃん」
ネズミはこの深刻の状況を理解できているのだろうか。
「それができたら苦労はないだろ? それができないから悩んでんだ、少し黙ってろ」
金太はうまくいかない苛立ちから、ネズミを一括する。
「方法としては、いまネズミがいったように、バッテリーば替えるか。充電器で充電すればええんやけど、充電器を探さんといかん。ばってん、前にもいったようにずいぶんと古かけん、おそらく無理やろネ」
ノッポは右手の人差し指でメガネを押し上げた。
「ノッポ、スマホでこの機種の充電器をどこかの通販で売ってないか調べてくれないか」
「よかよ」ノッポはスマホを指先で操って調べはじめた。
「金太、いま調べてみたんやけど、やっぱこの機種はどこにも引っ掛からん。残念やけど諦めるよりなか」
「どうしてもだめか?」
金太はまだ気持の整理がついてない。
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