第47話 エピローグ

「ちょっとこの時計ば見てみんネ」

 Tシャツとジーンズに着替えたノッポが、頭のてっぺんから震える声でみんなにいう。

「信じらんない。これってマジぃ」

 愛子が覗き込んだノッポのスマホの時刻表示は「12:15」だった。向こうに出発してからまだ1時間と30分しか経過してなかったのだ。

「えッ、たった1時間半?」

 ネズミは、思いもしない受益に小躍りをはじめる。

「確かこの前もそうだったよね」

 愛子の顔には、ネズミと違ってそのメカニズムを解明したいという探究心に満ちていた。

 そう、この前タイムトリップをしたときも結構時間を経過したと思ったのに、戻ってみるとたった15分しか経っていなかった。どう考えても不思議な現象だった。

「ところでみんな、来週また行こうと思うんだけど、どうする?」

 金太は心身共に疲れていた。あんなことがあったのだから無理もない。早く家に帰り、シャワーを浴びてベッドに入りたかったため、返事を急がせる。

「金太は大変だったけど、面白かったからあたしは参加」

 と、相変わらず元気がいい愛子。

「ボクも来週は予定がなかけん、よかよ」

「ぼくももう少し江戸パークが見学したいからOKです」

 ネズミはおどけた口調で返事をした。

「よおし、みんな参加ということでいいよな。じゃあ詳しいことはあとでメールするから、きょうはこれで解散ということにします。みんなも慣れないトリップで疲れたと思うから、早く家に帰って休んで下さい。それじゃあ、解散」

 口にはしなかったが、やはり疲れていたのは金太だけではなかったようだ。みんなは秘密基地を出ると、無言のままちからなく帰って行った。

 金太は家に帰るとまず冷蔵庫を開けてよく冷えたコーラをぐびぐびと飲んだ。

 すぐ横に母親が遅めの昼ご飯の用意をしていたが、なにもいわずにネギのみじん切りを拵えていた。

 母親に汗をかいたからシャワーを浴びたいといって浴室に入った金太だったが、このままベッドに潜り込んだら間違いなく昼ご飯で起こされることがわかっていたので、しかたなく我慢して素麺のできるのを待った。

 涼しげなガラスの器に氷と一緒に、白くて細長な素麺が泳ぐように浮いている。金太は、母親がみじん切りのネギと食欲をそそる紫蘇の葉の入れてくれたガラスのそば猪口に素麺を入れて勢いよくすする。咽喉の奥を流れてゆく麺の冷たさがこれまでの自分を思い出させた。

 これまであまり味のない素麺なんて好きじゃなかった。ところがたった1日半向こうに行って、そして3食べただけなのに、いつもの家の食事がこんなに感動するとは考えてもなかった。

 いまの自分の気持を誰かに話したい、聞いて欲しいと思うのだが、残念なことにそれは許されることではなかった。

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