第46話

 ―――

「おはるちゃん、おいらたちずいぶんと世話になったから、おはるちゃんのおかあさんにお礼がいいたいんだけど……」

 帰り支度をすませた金太は、寝食を供してもらったことを心底感謝している。だからどうしてもその気持を伝えたかった。

「そんなのいいのよ。おっかさんはいま店がしくて手が放せないから、ちゃんとあたいから伝えとく」

 おはるは笑顔で答える。

「でも……」

「いいんですよ、奥さまにはお嬢さまとわたくしからよくお伝えしておきますから」

 おきよがおはるの後ろから肩越しにいった。

「じゃあ、おいらたちこれで帰るから。本当にありがとう」

 金太が深く頭を下げると、ほかの3人も同じように低頭した。

 木戸を潜って路地に出ると、4人は申し合わせたように深く息を吸い込み、後ろを振り返りながらおはるの家をあとにする。

 木戸のところにはおはるとよし吉が手を振りながら見送っている姿があった。

 路地を出て大きな通りを右に回ったところで、足を停めた金太が、

「あの神社まで戻るか、それともそこらの路地に入って人目のつかない場所でトリップするか、どうする?」

 金太は重圧から開放された反動から、一時でも早く戻りたくてみんなに相談した。

「それってどういうこと?」

 愛子は金太の気持がわかってなかった。

「ここから神田明神までは少し距離がある。こっちに来るときに人の目に触れることは絶対にあってはならないことだが、向こうに戻るときはそれっきりだからそれほどでもない。だからそこらへんの路地に入ってトリップしようと思ったんだ」

「わかった、金太のいうとおりにする。ここで議論している時間がもったいないわ」

 4人は飯屋と桶屋の間にある路地に向かって歩き出した。やはり大きな子供が4人も揃って歩いていればどうしても目につく。それに挙動が不振になるのも隠し切れなかった。

 ちょうどうまい具合にでき上がった桶が積んであった。金太たちはその陰にしゃがみ込みむと、金太が手にする携帯を喰い入るように見つめる。

「さあ、行くぞ」

 金太が声をかけながらボタンを押したとき、「おーいこら、そこの餓鬼ども、そこでなにやってんだ」という桶屋の職人の声が聞こえたが、やがてなにかに呑み込まれたかのようにすうっと消えて行った。

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