第45話

 よし吉を含めて全員が庭先に揃うと、おはるの指図で片方の履物を前に出す。するとおはるとよし吉がおきよに教えてもらった草履かくしの歌を歌いはじめた。

『じょんじょの じょりかくし おじょりではなかんで……』

 最初の鬼は見本を見せる意味でおはるになった。

「もういいかい?」

 目をつむったおはるが大きな声で訊く。

「もういいよ」

 みんなが声を揃えておはるに呼びかける。するとおもむろに目を開いたおはるは、縁の下や植木の陰を探しはじめ、またたく間に全員の履物を見つけ出した。

 遊びの要領を覚えた金太たちは、その後なんども草履かくしに興じたのだった。

「お八つ(午後3時)ですよぉ」

 おきよのよく透る声で突然遊びをやめた子供たちは、どかどかと部屋に上がった。

 おきよが用意してくれたおやつは、井戸水でしっかり冷やしたスイカだった。

 金太たちはスイカをひと切れずつ手にすると、縁側に腰かけておいしそうに食べはじめる。

 金太がふた切れ目を食べようとしたとき、

「金太、きょう……」おはるがいいかけると、「おはるちゃん、おいらたちきょう、夕方帰らないといけない」

 ここを離れることをいついい出そうか、いついい出したらいいのかずっと悩んでいた。このときしかないと決断した金太は思い切って言葉をかぶせた。

「ほんと?」

 おはるはいずれこうなることはわかっていた。だけどその言葉を直接金太の口から聞かされると一瞬躊躇してしまった。

「ああほんとだ。でもまたすぐにみんなで遊びに来るから」

 金太は次回の予定などまったく決めてなかったが、おはるの顔を見ていたらつい口から出てしまった。丸2日も経っていないのに、すでにひと月以上一緒にいたかのようにすっかり情が移ってしまっている。

「で、いつ? 今度はいつ来るの?」

 おはるは虫の報せのようなものを感じているのか、いつもと様子が違っている。

「そうだなあ、来週……じゃない、えーと七日後に来る」

「きっとだよ。約束してくれる?」

 よく見るとおはるの目には薄っすらと涙が滲んでいた。

「ああ、約束する」

 金太は、涙の浮かんだおはるの瞳を見てついもらい泣きしそうになった。腹の底から淋しさがせり上がって来る。

「じゃあ」

 おはるは涙の混じった声でそういいながら小指を差し出した。

 金太も同じように小指を出しておはるのそれに絡ませた。冷たい指だった。

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