第44話
作動が表示されるまでの時間がとてつもなく長い時間に思える。そして……
「やった、電源が入った。これで間違いなく家に帰ることができるぞ」
金太の喜びの声を聞いたとたん、ほかの3人は奇声とも歓声ともつかぬ声を部屋中に響かせた。
しかし半べそをかいてたよし吉は、訳がわからなくてポカンとした顔で金太たちを眺めている。そんな所在なげにしている姿を見て、
「よし坊、このことはおいらたちが約束したように誰にもいわないからな。さあ指きりだ」
そういって金太はよし吉の目の前に右の小指に突き出した。
お昼を少し回った頃、ようやくおはるが手習いから戻った。
「ごめんねぇ」
いままでこの離れで起きていたことをいっさい知らないおはるは、いつもどおり明るい笑顔で部屋に入って来た。
「お稽古すんだの?」
愛子はなにごともなかったように話しかける。
「ええ、すんだわ。だからもうみんなと遊べるからね」
金太は先ほどみんなに夕方までここにいて、それから家に帰ることを伝えてある。おはるにはわるいが、本心をいうとすぐにでも帰りたいところだ。だがあれだけ世話になったおはるに会わずに帰ることはどうしてもできなかった。
他愛もない話を続けていると、そこにおきよとおとよが昼食を搬んで来た。お昼は簡単に塩おにぎりとたくわんだった。心配ごとが霧消した4人の食欲はすさまじいもので、あっという間に普通より大きめのをぺろりと3つ食べてしまった。ネズミなんかはまだ物足りなさそうな顔でおとよの顔を見ている。その所要時間はものの5分ほどだった。
「……ところで、なにして遊ぼうか」
しばらく食後の休憩をしたあと、金太はいつもと同じ口調を意識していった。その理由は、金太の心情として、どうしても別れを急いでいると思われたくなかった。
「そうね、じゃあ、じょりかくしでもしない?」
おはるはあくまでも明るい。
そんなおはるを見ていたら別れをいい出す自信が金太にはなかった。
「じょりかくしってなあに」
愛子はそれがどんな遊びなのかまったく見当がつかなかった。
「まずみんなが片方の草履を出すでしょ。それから歌を歌ってどの草履かえらぶの。そのえらばれた持ち主が鬼になって、目隠しをしている間にほかのみんながそれぞれの草履をかくすの。そして鬼になった人がかくした草履を探すっていう遊び」
「なんとなくわかったわ。じゃあそのじょりかくしっていうのをみんなでやりましょ」
愛子はそういいながら立ち上がると、率先して庭に向かった。
次に立ち上がったのは金太だった。この炎天下に外で遊ぶのはいささか抵抗がなくもなかったが、あと数時間しか一緒にいられないと思うと、ぐずぐずしている暇はなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます