第42話

「うーん」

 金太は声を出すと同時に畳を勢いよく叩く。

 思うように物事がはかどらない苛立ちが唸り声に込められているようだった。

 しばらくそのまま天井板と睨めっこしていた金太ががばっと起きて部屋の隅に置いておいた自分の布袋を手もとに引き寄せた。もう一度原点に戻ってみるということを思いついたのだ。

 なかのものを全部取り出して、まじまじと見たあとひとつひとつ袋に戻しはじめて。やはり袋のなかには手がかりになるものはなかった。

 諦めて布袋の紐を締めようとしたとき、布皺のところに白い粉が付着しているのを見つけた。

 金太が小首を捻りながら粉を叩いていたとき、ノッポが声をかけた。

「金太、なんばしよっと?」

「うん、これなんだけど、なんの粉だと思う?」

 布袋をノッポ見せようとしたとき、愛子もネズミも同時に腰を上げた。

「なんやろ? この白さは土でも壁でもなか」

「ちょっと見せて。……これって、ひょっとしたら大福もちの粉じゃないの?」

「えッ! なんだって? 大福もちだって」金太はもう一度じっくり袋のその部分を見る。「アイコのいうとおり、これは大福もちのまわりについている粉だ。間違いない」

「だとしたら、それは片栗粉よ」

「あの白い粉って、片栗粉なん?」と、愕いた顔のノッポ。

「そうよ。おもちを丸めるときに使うの」と、愛子が博学のところを見せる。

「アイコはそんなこと知ってるんだ?」金太も不思議そうな顔をする。

「たまたま家庭科の授業で話題になったから、家に帰ってインターネットで調べたことがあるの。ただそれだけのこと」

「でも、どうしてここに片栗粉が付着してるんだろう? だってオレは食べたあとトイレに行ってそのとき手を洗ったから、オレがつけるということはありえない」

 金太はその瞬間に、なにかこの白い粉が携帯紛失事件の糸口になるような予感が頭のなかを奔り抜けた。

「じゃあ、誰が布袋ば触ったんやろね」いいながらノッポはネズミのほうに顔を向ける。

「ぼくじゃないよ」ネズミは慌てて顔の前で手のひらを烈しく振る。

「わかってるよ。だってそうだろ。あの携帯がオレたちにとって命の次に大切だってことはメンバーならわかるはずだ。そのメンバーが自分の首を絞めるようなことをするはずがない。ということは、犯人とおぼしき人物はひとりしかいない。それはおはるちゃんの弟のよし吉だ」

 金太は確信を得たような顔で順番にみんなの顔を見た。

「そういえば、あのとき、金ちゃんがおしっこしに部屋を出たとき、よし坊が袋のそばに座ってた。間違いない」

 ネズミの顔にはいつになく自信があふれていた。

「そうか……」

 金太はそういいながらなにかを考えているようだった。

 そのとき、廊下で足音がすると、きょうはじめてよし吉が顔を見せた。

「きょうはどこにも行かないの?」

 誰に話しかけるでもなく、部屋のなかを歩き回りながらいった。

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