第41話

 みんなが携帯を探しに出かけてかれこれ2時間が過ぎた頃、金太が浅草から戻って来る途中、神田川の畔で愛子と出会った。

「どうだった?」

 愛子が先に金太を見つけた。

 金太もようやく愛子に気づいたらしく、手を振りながら駆け寄ると、

「全然だめだ。そっちは?」

「こっちもだめだった」

 愛子はがっくりと肩を落とす。あまり見たことのない姿だった。

 ふたり揃って歩いていたとき、先方からネズミが小走りでやって来た。

「金ちゃん、一生懸命探したけど、やっぱどこにも見当たらなかった」

 ネズミは汗の額を拭おうともせずに報告する。

「わかったよ」

 ネズミのせいではないからそれ以上はいうことはなかった。

 3人はなんの収穫もないまま重い足取りでおはるの家に向かう。あとはノッポが見つけてくれるのを祈るしかない。もしノッポも自分たちと同様になんの成果もなかったことを想像すると余計に足の搬びが鈍くなるのだった。

 もし誰かに拾われていたとして、それが自身番とか奉行所に届けられた大変なことになる。それこそ二度と家に帰ることができなくなってしまう。この時代にあってはならない道具だからだ。

 

 金太たち3人は大黒やの離れに戻ると、歩き回って咽喉が渇いたのだろう、それぞれがけさ井戸で水筒に汲んだ水を一気に飲んだ。

「ノッポはどうしたのかしら?」

 ひと息ついた愛子は、姿を見せないノッポを気遣う。

「見つけてくれるといいけどなぁ」

 金太はつぶやく。その表情には期待と願望が入り混じっていた。

 3人がノッポの心配をしていたとき、突然木戸が開いて、息を切らしたノッポが姿を現した。

「ノッポ!」

 ノッポの無事なのがわかった金太は、つい大きな声を出してしまった。

「ごめん」

 ノッポは半分泣きそうな顔をしている。

 金太はなにもいわずに水筒を差し出す。ノッポは受け取ると、ゴクゴクとうまそうに水を飲んだ。

「本当にごめん。あちこち探したんやけど携帯はどこにもなかった」

「気にしなくていいよ。これはノッポのせいじゃない。オレの不注意でこうなったんだ」

「これは誰のせいでもないよ、金太。そんな責任の所在よりも、これからどうしたらいいかを話さない?」

 愛子のいうとおりだった。いまいちばん必要なことは、どうしたら家に帰ることができるかということだ。

「そうだ、アイコが正解だ。よし、まだ時間は残っているから頭を冷やして最善の方法を考えよう」

 金太はおはるが手習いから戻る前になんとかできたらいいと思いながらいった。

 みんなは暑さを避けて部屋に上がりこんだ。金太は部屋の真ん中で天井を見つめたまま横になり、ノッポは部屋の隅で両膝を抱えて座っている。ネズミは床柱にもたれて足の指をじっと見たままだ。愛子は廊下で膝をくずしたまま庭先に視線を落としていた。

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