第40話 4

 江戸の朝は早い。陽が昇ると同時に町は動き出す。みんなは5時頃におはるに起こされた。だが、金太だけは1時間ほど前から起きていた。布団に入ったときは昼間の疲れですぐに寝入ったのだが、なにかの拍子で夜中に目を醒ましてからは眠れなくなってしまい、しかたなく次の日の行程をどうしたらいいか考えているうちに段々目が冴えてきてしまった。

 金太は携帯電話を紛失したことをおはるに話すべきか否か悩んでいる。世話になった上にこれ以上迷惑をかけることはできない。だが、携帯を探すとなると、ひとりでも人数が多いほうがいい。どうしてもきょうの内に見つけなければならない。2日も3日もここにいるわけにはいかないのだ。最初は遊び半分、興味半分でここに来たのだが、いまになっては自分だけでなく結社のメンバーまで引き込んでしまった。金太は責任の重さに押し潰されそうになっている。

「ノッポ、ちょっと話が……」

 金太はどうしても自分で結論を出すことができなかった。

「どげんしたト? 神妙な顔して。具合でもわるか?」

「いや」

 金太は、いまの自分の心情と温度差のあるノッポの飄々とした話し方にややイラっとした。

「なんね? 話ばあるんと違うかったんか?」

「うん、じつはオレがなくした携帯のことなんだけど、おはるちゃんに話したほうがいいだろうか? そのほうが早く見つかるかもしれないし、このあたりの事情をよく知ってるから探しやすいかもしれないと思って」

 金太は気を取り直して悩みを打ち明けた。

「そうやね、でもどうなんやろ、あの人はよう考えたらぼくらと次元の違うところにいる人やけんあまり余計なことに巻き込まんほうがええのんと違うやろか」

「やはりノッポもそう思うんだ。じつはオレもそう思うんだけど、オレたちには少しでも早くここから脱け出す必要があるから、それで悩んでる」

 少し胸の内を曝け出したことで気が楽になった金太は、瓦屋根を見上げながら大きく息をした。

「ほんならこうせんネ? 最大きょういっぱい内緒にしてぼくたちだけで探すとして、もしそれでもあかんかったら、協力してもらうっていうんは」

「しかたない、そういうことにしようか。じゃあ朝ごはんがすんだら手分けして探そう」

 とりあえず現段階ではそれが最善策だと考えた金太は、ノッポとグータッチをした。


 都合のいいことに、おはるはどうしても手習いに行かなければならなかったので、その間になくした携帯電話を探すことにした。

 いつもの夏の様子がわからないからなんともいえないが、早朝であるにもかかわらず陽射しが容赦ない。4人は、おはるに気づかれる前に木戸を潜って路地に出ると、打ち合わせどおりに四方に散らばった。

 ネズミと愛子はこの近く……つまり神田明神から神田川沿いを、金太とノッポはもう少し先の蔵前から浅草観音までの心当たりのある場所を分担して探すことにした。

 かといって思い当たる場所がそう簡単にあるわけがない。しかたなく薄い記憶のまま歩くよりなかった。それだけならまだしも、烈しい動作に着物は適してない。思うように躰を動かすことができなくて全員が苛立っていた。しかしそれを脱いだとしても、代わりに着るものがないからいまのままで押しとおすよりない。

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