第38話
みんなが膝を突き合わすようにして相談していたとき、廊下から足音が聞こえてきて、ようやくおはるとよし吉が姿を見せた。
「どうしたの、みんな浮かぬ顔して。なにかあったの?」
事情を知らないおはるは、笑顔でみんなのそばに座り込む。
「いや、別に」
金太は平静を装っているものの、これまでおはるに見せていた表情とは明らかに違っていた。
みんなと相談していたとき、いっそのことおはるに自分たちが200年先から来ていることを打ち明けようという話が持ち上がったのだが、どうしてもそれだけはしたくないと金太が譲らなかった。
かといって、いまからもう一度浅草まで探しに行ったとしても、そう簡単に遺失したものが見つかるとは思えない。
金太は、ひとりでおはるの家から出ると、神田川のほとりを考え事しながら歩いた。
(どうしたらいいのだろう。やはりみんながいってたように正直に話そうか、それともみんなして手分けをして探したほうがいいのだろうか……)
そんなことを考えながら30分ほど歩いた。徐々に時間がなくなってくる。結社のリーダーとして結論を出さなければならない。気持は焦るばかりだった。
金太は腹を決めた。離れに戻ると、みんなを集めてこういった。
「ずっと考えてたんだけど、このままじゃどうすることもできないから、明日まで待とう。そして心当たりのあるところを探してみよう。みんなも手伝って欲しい」
「探すのはいいけど、今晩寝るところころはどうするの?」
愛子はすでに覚悟を決めているようで、言葉に澱みがない。
「うん、それなんだけど……」
そこまでいいかけたとき、母屋に行ってたおはるが戻って来た。
「ねえ、夕ご飯だけど、うちで食べてくでしょ?」
「いいけど、おはるちゃんちに迷惑がかかるから……」
天から振った救いの言葉にすぐにでも跳びつきたい心境だったが、金太は遠慮をする。だが、そうかといって当てがあるわけではなかった。
「うちは全然構わないわよ。だってどっちみち小僧さんたちの賄いを拵えるんだから、
四人分増えたって変わらないわ。なんなら泊まっていってもいいわよ。この部屋使ってないから」
むしろおはるは金太たちに食べていって欲しいと思っていた。金太たちには渡りに船のおはるの言葉だった。
「ねえ、金太ァ、せっかくだからお願いしようよ」
愛子は、さすがに神社の床下とか橋の下などで野宿するのにいささか抵抗があった。それは男連中とは違うから無理もないことだった。
「そうしようか?」
金太は賛成して欲しそうな顔でノッポを見る。
「そうしようよ。ばってんアイコもいることやし、家に帰ったら帰ったでなんとかなるやろ。さっき内緒でスマホば出してみたんやけど、やっぱ通じんかったト」
「ネズミもOKだよな」金太は半ば強制的な聞き方をする。
「うん」
ネズミはよその家で泊まれることを楽しみにしているのか、修学旅行にでも来ているような気分でいるのか、まったく屈託のない返事をする。
「じゃあ、あたいおっかさんにみんなの夕ご飯作ってもらうようにいって来る」
おはるはみんなと食事をできるのが余程嬉しいのか、足音と共に母屋へ小走りで向かった。
そういえば、先ほどからよし吉の姿が見えない。浅草に行くときも母親のそばにべったりくっついてほとんど離れることがなかった。ひょっとして歩いているうちに気分でもわるくなったのだろうか。でも帰って来たときには、離れでみんなと一緒に話しをしたりして遊んでいたのだから、そうでもないみたいだ。
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