第31話
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さすがに江戸の町も床下まで熱気が流れて来ている。
金太も慣れたもので、じっと床下でおはるの来るのを待つことなく、あたりの様子をうかがったあと素早く床下から脱け出す。ほかの3人は金太の合図を待って順番に外に出る。
金太たちは境内の茶店を横目に、朱色の鳥居を抜けたところでおはるを待つことにした。「みたらし食べたいなぁ……」
どこからか流れて来る醤油の焦げた香ばしい匂いに、ついネズミがこぼした。
「我慢しろよ。ここではオレたちの持ってるお金じゃ買えないんだから」
「わかってる。でもこの匂いに負けそうなんだもん」
そんな会話をしているときに、参道の向こうから小走りでやって来るおはるの姿が見えた。
「ごめんね」
おはるはまずはじめに愛子に向かっていった。
「いいの、気にしないで」
「きょうは、みんなをあたいん家に来てもらおうと思って、そいで朝からおきよとふたりでお掃除してたら遅くなっちゃったの。本当にごめんなさい」
今度は金太たちに向かって頭を下げた。
「ええッ、おはるちゃんの家に呼んでくれるのかい?」
金太は予想外のことに目を丸くする。
「そう、だって一度みんなにあたいん家を見てもらいたかったの」
「それはいいけど、迷惑じゃないの?」
愛子は気遣って訊く。
「ううん、心配いらないわ。さあ、行きましょ」
おはるはくるりと踵を返すと、すたすたと歩きはじめた。
神田明神を出て神田川の手前を左に折れ、川に沿ってしばらく行ったところで10人ほどの人だかりがあった。
好奇心の強い金太たちはその人だかりに頭を突っ込む。
「さあさお立会い、近くに寄って聞いとくれ。五月に捕らえられた、あの、あの鼠小僧次郎吉の処刑される日が決まったよ。お調べによると大名屋敷に忍び込んで盗んだ
頭に手ぬぐいを載せた男が、竹の棒で印刷した紙の束をぱんぱんと叩きながら、よくとおる声で口上を述べている。
口上を聞きながら鼠小僧という言葉が耳に入るたびに、自分のことをいわれているみたいでネズミはびくびくしていた。
「いまいってた鼠小僧次郎吉って、ひょっとしてあの大泥棒で、盗んだ金を貧乏人に配ってたという……?」
ノッポは信じられないといった顔でおはるを見る。
「あれ? のっぽは鼠小僧のことを知ってるの?」
「いや、そんなによくは知らん。どこかでちらっと聞いたことがあるト」
ノッポは慌てて言い訳をする。
「でも、そんな瓦版見たことないけど、貧乏人を助けたってどうして知ってるの?」
意外なことに、えらくおはるが鼠小僧のことで喰いついてくる。
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