第27話
「オレとおまえの仲だ、隠し事はなしだぜ」
「うん……じつは、来週トウさんのほうの法事があって福岡に行かんといかんのを忘れとったト」
ノッポは残念そうに唇を結んで金太の顔を見た。
「法事があるんだったら来週はパスすればいい」
「ばってん、ぼくが法事に行ったって別になにをするわけでもなかけん、正直行きたくなか。そうだ、大事なテストがあるけん行かれんたいって嘘をついたらええな。そのほうが親も交通費が助かるけん一挙両得や」
ノッポはやっと出口を見つけたように急に明るい顔になった。
「まあそれはノッポ次第だからオレはなんともいえないよな」
どちらかといえばノッポが一緒に行ってくれたほうが金太としてはベターなんだが、こればかりは金太がどうのこうのいう問題じゃなかった。
次の土曜日―――。
いつもは集会の時間にまともに集まったことがないのだが、先週といい今週といいみんなで申し合わせたように時間ぴったりに4人が揃った。
先週福岡で法事があるといっていたノッポも平然とした顔で参加している。
「ノッポ、大丈夫なのか?」と、金太が訊く。
「うん、意外とすんなり回避できたけん、心配いらんト」
「なにかあったの」
経緯をまったく知らない愛子が心配そうにふたりの顔を見る。
「いや、なんでもないから気にしなくてもいい。それよりみんな準備はいいか? よかったら出発進行だ」
金太は笑顔でいった。はじめてではないせいか、返事をしたほかの3人にも余裕の表情がうかがえる。
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おはるはすでに神田明神の本殿裏手で足踏みをしながら金太たちが来るのを待っていた。
床下から這い出た金太たちはすぐにおはるのもとへ走った。相変わらず江戸の空は晴れ渡っている。梅雨時なのにえらく清々しい。そのせいかどことなく神社への参拝客の足取りも軽やかに見える。
「ねえ、金太、どこか見物したいところ決めた?」
おはるはいつもの赤ではなく青色の着物に黄色い帯で、手にはうさぎの柄の巾着を持っている。どことなく気合が入っているような装いに見えた。
「うん、とりあえずこの前ネズミがいってた江戸城に行ってみたいと思うけど、ここから遠いのかな?」
「そう、ここからだと神田川の昌平橋を渡って南に十町ほど行ったところよ。そんなに遠くないわ」
「十町ってどれくらいだ、ノッポ」
金太は小声でノッポに助けを求める。
ノッポだってはじめて聞くそんな距離の単位を知るはずがなかった。
「そこの隅に行って電子辞書で調べてくれないか」
金太は耳打ちをする。
「わかった」
ノッポは道の脇に行って背を向けると、布袋からおもむろに電子辞書を取り出し、まわりに見られないようにして検索をはじめた。
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