第26話 4
「すごいね、嘘みたい。この時計見てよ、あれだけ長いことあっちに行ってたのに、まだ10分しか経ってないんだよ。これってすごくない?」
ネズミは、呼吸をするのを忘れるぐらい興奮しきっている。
「確かに前も5分か6分しか経過してなかった。だけど、どうしてそうなのかはアイ・ドント・ノウだ。そんなことより無事にここに戻って来られたことに感謝しないとな」
金太は浴衣の帯をほどきながらいったあと、布袋から残ったおにぎりを取り出した。
「でもすごかったわ。いまだに信じられない」
愛子もネズミと同じで興奮気味なのをかくせないようだ。
「ぼくも、ノッポさんにまるでテーマパークのようだって聞かされてたんだけど、本当にそうなんだもん、びっくりしちゃった。でも今度行くときには下駄じゃないほうがいい。だって何度もつまずいて転びそうになったんだもん」
ネズミは、金太のアドバイス聞いてなかったのだからしかたがない。
「あれはネズミの歩き方がわるいからよ。あたしも下駄だったけど、別にそんなことなかった。でも浴衣の下にTシャツはだめ。それにまだ浴衣の季節じゃないから、町を歩いててもあたしたちだけ浮いてた感じがしてちょっと恥ずかしかった。今度はそんなヘマはしないわ」
どうやら愛子もネズミ同様に次を期待している言い方だった。
「浴衣じゃおかしか?」
「おかしいに決まってるじゃない。真夏の夕方じゃあるまいし、誰も浴衣姿で歩いてなんかいなかったじゃない」
「そうかなぁ、ぼくはまったく気にならんかったト。やはりアイコは女の子やね」
ノッポは今回2度目だったが金太にいわれたとおりにしただけなので、服装についてなどまったく気にしてなかった。
金太はおにぎりを齧りながらふたりの話しを黙って聞いている。すでに来週のことを考えているのかもしれなかった。
「ばってん、さっきおはるちゃんが見物したいところがあれば案内してくれるゆうとったが、いざ行きたいとことなるとなかなか思いつかんもんやね」
ノッポは小屋の天井に視線を向けながらひとりごちるようにいった。
「そのことについては、1週間あるから、その間に考えておけばいいさ。だけど、向こうに行ったら電車やバスなどの移動手段がないから、そのへんはよく考えて決めないといけない」
「うーん、やっぱりそうなんだ。いっぱい見たいとこはあるんだけど、でも交通手段がないとなると、移動範囲が限られるわよね。でもみんなは知らないけどあたしはなんか江戸のあの雰囲気が好き。これを誰にも話せないというのはメチャ残念だわ」
愛子は余程気に入ったのか、目を耀かせて話している。
「おはるちゃんには来週って約束したんだけど、みんなの都合はどう? 誰かだめだという人いる?」金太は3人の顔を順番に見る。「OKだな、よしわかった。荷物は小屋に置いておいていいから」
そして金太は、次の週の同じ時間に集合することを伝えたあと散会させた。
ところが、ノッポだけが小屋に残ったままで一向に帰ろうとしない。
「ノッポ具合でもわるいのか?」
小屋を出ようとした金太はノッポのところに戻って訊く。
「いや、そげんことはなか」
そうはいったもののどこか浮かぬ顔を見せている。
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