第25話
やがて4人はおはるのあとについて神田川の堤まで来ると、突然ネズミが、
「ねえ、金ちゃん、お腹すいたからおにぎり食べてもいい?」
と、懇願するように訊く。
「いいけど、充分気をつけてな」
金太が「気をつけてな」といったのには意味があった。おにぎりを食べたらどうしてもお茶か水が飲みたくなる。それはいいのだが、プラスチックの水筒やペットボトルを剥き出しにしたら絶対にだめで、それはここに来る前に口が酸っぱくなるほど金太はみんなに忠告している。それでもひょっとしてということがあるので念を押した。
「うん」
返事をしたネズミは、草の上に腰を降ろすと、嬉しそうに布袋から小さな紙包みを取り出した。そしてその包み紙をおもむろに開いたとき、金太ガ慌てて自分の持っている布袋を包み紙にかぶせた。
「バカ!」
金太はネズミの耳もとでおはるに聞こえないように声を殺した。
ネズミはなぜ金太が目の色を変えて怒っているのかわからないでいる。
「どうしたの?」
「どうしたじゃないよ。おにぎりの包みを見てみろよ」
「金ちゃんがいってたようにちゃんと紙に包んで持って来たよ」
「表の包みのことじゃない、そのなかに包んであるものだよ。それってサランラップじゃないか」
「あッ、そうだ、そうだよね」
ネズミはようやく気がついたらしく、慌てて布袋を抱えながら気まずい顔見せた。
「まだおはるちゃんは気づいてないようだから、そっとサランラップを外しておはるちゃんに見られないようにしろよ」
「わかった。ごめんね」
ネズミは小さな声でそういいながらみんなの顔を順番に見た。
ひと騒動がすむと、ほかのみんなも空腹だったのか、それぞれが昼食のおにぎりを頬張りはじめた。
「おはるちゃん、これ、ひとつあげる」
やはり女の子は気が利くものだ。愛子は竹の皮に包んだおにぎりを差し出した。
「いいの? ありがと」
なにも用意してなかったおはるは、遠慮なくおにぎりに手を伸ばした。
見晴らしのいい神田川の川べりに並んで座った5人は、行き交う小船を見ながら楽しそうに昼食を摂った。
「ねえ、金太、せっかく遠いところから江戸に来たんだからどこか行きたいとこないの? あたい案内してあげる」
おはるは金太たちがいまだに筑前(福岡)から来ているものだと信じている。
「ぼくは江戸城が見てみたいな。だってあの徳川家康が建てた立派なお城だもん」
ネズミは口もとにご飯粒をつけた顔で自慢げにいう。
「そうじゃなか。江戸城は
ノッポは川面に視線を向けたままでネズミの発言を訂正した。
「へえっ、そうなんだ。ぼくはてっきり徳川家康が造ったんだと思ってた」
「おはるちゃん、オイラたちはおはるちゃんがいったように江戸の町をいっぱい見物したいと思ってるんだけど、きょうははじめてなのがふたりいるから、見物はまた今度にしたいんだ」
金太は慣れないふたりのことが心配でならなかった。
「わかったわ、それじゃあ今度来るときまでにどこに行きたいか考えておいて、あたいの知ってるとこだったらどこでも連れてってあげるから」
「ありがと。今度来るまでにみんなに行きたいとこを聞いておくから」
金太は布製のボトルケースに入れた水筒のお茶をひと口飲んだ。
そしておはるに7日後に来ることを約束して別れた。
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