第24話

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 着いたところは、いつもの場所である神田明神の床下だった。

 しばらくその場で待っていると、下駄の音が近づいて来るのが聞こえた。

「金太、こっち」

 金太が声のするほうに顔を向けると、この前と同じ赤色の着物を着たおはるが床下を覗き込む格好で手招きをしているのが見えた。

 金太たちは周囲に目配りをしながらそろりと床下から出た。眩しい陽射しに目がくるめき、まともにおはるの顔が見られない。

「おはるちゃん、これおいらの友だちで、アイコとネズミだ」

「ね、ず、み? 嘘でしょ?」

 おはるは愕いた顔になって金太を見る。

「いや、ネズミっていうのはニックネーム……じゃない、つまりあだ名なんだよ」

「ああびっくりした。本当にそういう名前なのかなと思ったわ」

 おはるは胸もとに当てた手を2、3度軽く叩いたあと、「あたいはおはると申します。おとっつあんは神田の旅籠町で大黒やという太物問屋をやってます」

 といったあと、おはるは丁寧に頭を下げた。

「あたしはアイコっていうの、よろしくね」

「よろしく」

「おはるちゃんは歳いくつ?」

 女の子同士だからか、愛子はストレートに訊く。

「あたいは十二になります」

「あたしは十五だから、三つお姉さんになるわ」

 ところが当時は年齢をかぞえ年でいうので実際はふたつ年上ということになる。

 しばらくなにか楽しそうに話している。やはりいつの世も女性というのは話好きの生き物であるようだ。

「おい、そろそろここを離れないか。あまり同じ場所にいると目立ってしょうがないから」

 金太はしばらくふたりの会話を聞いていたが、とうとう痺れを切らした。

「じゃあ神田川に行きましょう。きっとあそこなら遊んでるように見られるわ」

「そうだ、あそこなら大丈夫だ」

 おはるが先頭に立って歩きはじめる。空はどこまでも青く、柔らかな陽射しが降りそそいでいる。おはると肩を並べるようにして歩くのは金太ではなく、紺地にあさがおの柄の浴衣を着た愛子だった。

 慣れない下駄に戸惑いつつ、はじめて見る江戸の町並にネズミは目を丸くしている。そんな並んで歩くノッポも、この間来たときはネズミと同じ顔をしていた。

 塊りになって急ぎ足で歩くおはるたち5人は、江戸の町では意外に目を惹くものがあった。というのは、平成の時代から来た金太たちの体格が町行く人々の大人より大きくてあまりにも不釣合いだった。こればかりはどうすることもできない。だがまわりが思うほど金太たちは気にしてなかった。

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