第21話

 ノッポ、愛子、ネズミの3人、特に愛子とネズミは思いもよらない金太の話に、ビタミン剤でも注入されたように揚々として家に帰って行った。

 ネズミは家に戻ると、母親が2度見するくらい早々に自分の部屋に閉じこもってパソコンの電源を入れる。

 愛子もそうしたかったのだが、帰るのを待ち構えていた母親に家の片づけを手伝わされることになり、結局パソコンの前に座ったのは夕方6時近くになってからだった。夕飯をすませていつもならすぐに部屋に籠るのだが、きょうは珍しく家族揃ってNHKの大河ドラマを観た。

 当然のことながらふたりで行くよりも4人のほうがリスクが高い。普通の旅行とはまったく違うから、きっちり頭を切り替えて臨まなければならない。ハイキングをするような中途半端な気持だとひょっとして二度と帰って来られなく可能性がなくもない。

 それがあって、「2週間後」と公言した金太はなんとかみんなをへ連れて行って、そして無事に帰って来るためにはどうすればいいか頭を捻った。

 散々悩んだあげく金太は夜遅くになってみんなにメールを送った。その内容というのは、ノッポを連れて行ったときと同じようなアドバイスに、今回気づいたことを付け加えたものだった。

 1. 服装は浴衣のような動きやすい着物とし、履物は草履あるいは下駄とする。

 2. 金銭は通用しないので持って行っても無駄。

 3. 空腹になったときのことを考えて、弁当を用意すること。

 4. 弁当はおにぎりが食べやすくていい。

 5. 荷物を軽くする意味で飲み物はなるべく小ビンにする。

 6. 目に触れるその時代に相応しくない素材のものは絶対に持参してはいけな    い。

 7. 携帯とか筆記用具とかお菓子を持って行く場合は布袋を作ってそれに入れ    る。

 8. 携帯かスマホを持って行く場合は必ずマナーモードにしておくこと。

 9. 刀を差したサムライには充分注意をすること。おもちゃではなく本物だから   である。

    ※ 以上を厳守できない者は参加を認めないものとする。

 金太は前回大失敗をした。それは、着替えを入れていったビニールのカバンだった。そのときはなんとも思わなかったのだが、向こうに行ってカバンを開けようとしたときに、材質がこの時代にないものであることに気づいた。慌てて金太は目立たないように束柱つかばしらの影にかくした。そんなことが2度と起きないように慎重に注意書きを拵えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る