第19話

 金太はみんなにひとつずつかわり玉を配ったあと、おもむろに話をしはじめた。

「急にきょうみんなに集まってもらったのは、アイコとネズミに聞いてもらいたいことがあったからだ。いまから話す話というのは、すぐに信じることのできない内容なのだが、でたらめでないことはノッポが証明してくれる。だから疑うことなく聞いて欲しい。そしてこれは誰にもしゃべっちゃいけない。約束だぞ」

 金太の口調は、いつもみんなに話すものではなく、えらく神妙なものだった。

「なによォ、えらく深刻な顔で話してるけど、そんなに大変なことなの?」

 愛子はマジ顔でいったあと、右の人差し指1本だけで髪を耳にかけた。

「ああ、とても大変なことだ。これを聞いたらふたりともびっくりして椅子から転げ落ちてしまうぞ」

「金太、もったいぶってないで、早く話しなさいよ」

 愛子はいらいらしながら催促する。ネズミはふたりの会話を、かわり玉で頬を膨らませたままじっと聞いている。

「じつは、オレとノッポはとんでもない体験をしたんだ。その体験というのは、昨日タイムトラベルで江戸時代に行って来た」

「そんなばかばかしいことを聞かせるために緊急集合をかけたの?」

「……」金太は、思いもよらない愛子の言葉にポカンとした顔になっている。

「アイコ、金太がいったことは嘘じゃなかヨ。ぼくたち本当に体験したんだ」

 ノッポは金太が嘘つき呼ばわりされるのをかばうようにいった。

「どうしてふたりだけで行ったの?」

 ネズミが口を尖らせて訊く。

「違うんだ。別に内緒にしようとしたんじゃなくて、充分に安全なことを確かめてからアイコとネズミに話そうと思った。だってこんな話しを聞いたらおまえはすぐに行こっていうだろ」

「うん」こくりと頭を下げるネズミ。

「ほらみろ。だからオレとノッポが相談して教えるのを遅らせたんだよ」

「なんか嘘くさい話なんだけど、それって証拠かなんかあるの?」

 愛子はまったく信用できないといった顔で訊く。

「それは……」金太は予想外の言葉に戸惑う。

「あるよ」

 横からノッポが口を挟んだ。

 ノッポは胸のポケットからスマホを取り出し、2、3度画面にタッチしたあと、愛子に向けて見せた。

「うっそォ。マジ? これってまさか日光の江戸村じゃないでしょうね」

 愛子はこれまでとは違って、目を耀かせながらいう。愛子がこれほど喰いつくとは思いもよらなかった。

「そんなんじゃなかよ。ちゃんと向こうで撮ったト」

「ノッポ、おまえいつ……」

「うん、金太にスマホや携帯は絶対に見せるなっていわれてたけど、どうしても写真が撮りたくなって、気づかれんように1枚だけ撮ったト。でもよかったやろ、アイコに信用されたんやから」

「まあ、そうだけど……。アイコ、これでオレのいってることが嘘じゃないってわかってくれたか?」

 金太は急に自慢顔で愛子とネズミを交互に見ていう。

「わかったわ」「ぼくは嘘じゃないと思ってたよ」

「それはいいんだけど、これからオレが話すことをよおく聞いて欲しい。アイコ、ネズミ、もしまたタイムトラベルに行くっていったらどうする」

 そういった金太だが心のなかでは自分だけでも行くことを決めている。だがこれまでいろんなことみんなでやってきた。ロビン秘密結社はいまだ健在なのだ。

「わたしは行ってもいい」と愛子。

「ぼく絶対に行きたい」とネズミ。

「よし、これで全員参加が決まったところで結社の儀式だ」

 金太が椅子から立ち上がるのを見て、ほかの3人も立ち上がると、差し出した金太の手のひらにノッポ、愛子、ネズミの順に重ね、「ボラーァ」と大きな声で結束を誓った。

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