第17話

「うーん」

 ノッポは唸りながら拱手する。

「金太、ここはおはるちゃんにはわるかけん、それらしい嘘をつくよりなか」

 ノッポはおはるに聞こえないような小声で囁く。

「それしかないかァ」

「そうだよ」ノッポは意外に冷静に判断している。

 金太はこの前会ったときには、遠いとこから来たといったが、どこから来たかは話してない。さて、どこにしたらいいか頭を捻った。

「おいらたちは江戸からうんとうんと遠く離れたところから来たト。そやけん言葉に訛りがあろうもん」

「遠くって、おおざか(大阪)とか京(京都)あたり?」

「ううん、もっとずっと遠くで、筑前(福岡)というとこや」

 ノッポは自分に訛りがあることに気づいて咄嗟に嘘をついた。

「そう、だから十四日ないとここに来ることができないんだ」

 横から金太が素早くフォローをする。

 当時14日という日にちは、電車も飛行機もない時代なので、江戸(東京)から京(京都)までの片道所要時間に相当する。福岡からだとさらに2週間はかかることだろう。おはるはそのことをまったく知らなかった。

「今度はいつ来られるの? また十四日あとになるの?」

 おはるはとても待ち遠しいといった顔になって訊く。

「なるべく早く来るようにするけど、はっきりと約束することはできない。こうしよう、もし早く来ることができるようなら、明神さまの床下に伝えたいことを書いた紙を置いておくから、おはるちゃんときどき見に行ってくれるかい?」

 この時代いまと違って連絡の取りようがないから、用があったり伝えたいことがあったときには直接伝えるか紙に書いて渡すしかない。

「わかったわ」

「今度はまた別の友だちと一緒に来るからね、待ってて」

「うん」

 おはるはにこやかに返事をした。

 初夏の爽やかな風が橋の下を吹き抜けてゆく。

 時折橋を渡る下駄や草履の音が聞こえるくらいで、まるで壷のなかにでもいるようにほかの音がまったく聞こえない。いま自分の生活している場所に必要不必要にかかわらず様々な音が蔓延していることに気づいた金太たちだった。


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