第16話

 川幅のそれほど広くない川が流れている。何隻かの船が船頭に操られて行き来していた。

 金太は布袋から地図のコピーを取り出す。ここがかの有名な、徳川家康が江戸市民の飲料水を確保するために改修した『神田川』である。

 おはるは大きな橋の下に金太たちを呼び寄せると、草むらにみんなを座らせ、手にしていた包みを開いてなかから竹の皮に包んだおにぎりを取り出した。

「さあ、これをお食べなさい」おはるは金太たちの目の前に差し出した。「おにぎりよ。お手伝いのおきよにこれを作らせてたから、明神さまに行くのが遅くなっちゃったの。だって、遠くから来るんだからきっとお腹が空いていると思ったから……」

「あっ、おにぎりだ!」

 と、よし吉が大きな声でいいながら手を伸ばそうとする。

「あんたはだめ。家に帰ってからおきよに拵えてもらいなさい。もういいからよし坊は向こうで遊んできな」

 おはるがよし吉の手のひらをピシャリと叩いた。

「さあ、金太とのっぽさん、お腹がすいてるでしょ? お茶はないけどごめんなさい」

「ううん、大丈夫だよ。せっかくだからご馳走になろう、ノッポ」

「うん」

 ふたりは余程空腹だったのか、黙々と大きな握り飯を頬張る。

「このおにぎり、なかになにも入ってなかけんが、それでもばりうまか」

 ノッポは満足そうな顔で指についたご飯粒を口に入れる。

「おい、おはるちゃんが気を利かせて作ってくれたんだぞ、なんにも入ってないなんてぜいたくをいうんじゃない」

「そういうつもりじゃなか。ごめんな、おはるちゃん」

「……」

 おはるはふたりがなんで揉めているのかわからなかった。

 ふたりが食べ終わった頃を見計らって、おはるが口を開いた。

「ねえ、金太、あんたたちほんとはどこから来たの?」

 おはるは金太たちが江戸の人間でないことはすでに感づいている。だが、どこから来たのかは知らない。まさか200年先から来たなど、理解できるわけがないのだ。

 そう訊かれても金太は説明することができなかった。いや、説明してもおそらく理解されないだろう。でもいつかは話さなければならない。

「なあ、ノッポ。おはるちゃんにどう説明したらいいんだろう。21世紀にいるオレらだって信じられないっていうのに、わかるわけないよな」

 金太は真剣な顔でノッポに相談をする。

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