第13話 5

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 たどり着いたところは、この前と同じ神田明神の床下だった。やはり薄暗くて、視線の先だけが逆光線となってやけに眩しい。

「わぁあ、本当かよ。まるで夢ば見てるようや。こんなことあるんやね」

 ノッポは一瞬のうちに異次元の世界に来られたことに歓喜している。

「な、オレは嘘をつかなかっただろ?」

 金太は自慢げにノッポの顔を見た。

「まあな。それより早く外に出よう」

 ノッポはここに来るまでのことをすっかり忘れて有頂天になっている。

「待てよォ、ものには順序というものがあるだろ。まず服を替えて町人と同じ格好になるんだ。それから、おはるちゃんがここに来るはずだから……」

 金太の語尾はいつもになく自信のないものになった。

「わかった」とノッポ。

 ふたりは狭い本殿の床下で服を着替えはじめた。

 家で浴衣の着方を母親に教えてもらったはずだが、普段着慣れていないのでなかなかうまく着ることができなくてずいぶん手こずった。

 なんとか身なりを整えておはるが来るのを待った。ところが、いつまで経ってもおはるの来る気配がない。金太は低い床下にいるにもかかわらず、さらに躰を低くして床下の向こうにおはるの姿を探した。

「ここで会う時間ば約束したト?」

「いや、時間を約束したわけじゃない」

「そやったら、来んかもしれん」

 ノッポは無駄な時間を過ごしたくないという気持が先に立っている。

「金太、おはるちゃんは来そうになかけん、メモにあった住所に行ってみたらどげんネ?」

「うん」

 金太はあまり乗り気でない返事をする。

 しばらくふたりの間に沈黙が続き、重苦しい空気に包まれたとき、

「やっぱりだめみたいだな。ノッポのいうとおり、メモの住所に行ってみようか」

「それがよか」

 ふたりはあたりをうかがいながら本殿の裏側の床下から抜け出した。本殿の横を通って正面に出る手前で覗き見るようにして様子をうかがう。幸いなことに、ここに来る人たちのほとんどがお参り目的なので、あまり他人のことを気にしていないようだ。

 金太たちは足早に参道を歩いた。まさにドラマで観る光景が目の前に繰り広げられている。参道を出て大きな通りに出ると、正面に広大な敷地があり、外部を完全に遮断するかのような土塀に囲まれた立派な建物が目に入って来た。幕府の学問所である湯島聖堂だ。

 金太は眼前にある光景など見向きもせず、目標とする旅籠町に向かって足を早めている。金太に任せっきりのノッポは、ついて行くのに精一杯だった。

 ノッポにとって江戸の町はまるでテーマパークだった。地面は神田明神の参道にあった石畳があったのを見たくらいで、それ以外のところは学校のグランドと同じ土のままである。当然のことながら見慣れたアスファルトの景色などどこにもない。電線もさることながら電柱というものも見当たらない。この時代電気というものがないので当然といえば当然なのだ。さらには通りの両側に建つ家々を見ても、すべてが木造でコンクリートで拵えた家など一軒もなかった。見るものすべてが新鮮だったが、ただ自動車やバスが走ってないので移動するときのことを考えるとぞっとしなくもなかった。

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