第11話 4

 土曜日になって、ノッポは大きな黒のビニールカバンを提げて秘密基地にやって来た。

 あの日金太に頼まれて返事はしたものの、悩み続けていたのは偽らざるところだった。しかしその反面タイムマシンというものを経験したいというのも多分にあった。金太のいっていることが本当だとしたら、こんなチャンスは滅多にあるものじゃない。

 まだ金太は姿を見せていない。ノッポは入り口の鍵を開けてなかに入った。近頃は気温も上がってきているので、閉めっ放しの小屋のなかは空気が澱んでいる。いつもだったらすぐにでも窓を開けて空気を入れ替えるのだが、これからのことを考えるとなぜか緊張が躊躇させてしまうのだった。

「ボラーァ」

 ノッポは声のするほうに顔を向けると、入り口のところで金太が笑いながら立っていた。

「ボラーァ。遅かァ、ずいぶん待っとったト」

「ごめん、ごめん。家を出ようとしたら姉ちゃんがいろいろと話しかけてくるもんだから、感づかれんようごまかすのに時間がかかっちゃった。ところで、この前頼んだもん持って来てくれたよな」

「ああ、いちおう揃えたつもりやけど、金太チェックばせんネ?」

 ノッポはビニールカバンのファスナーを開けてなかを見せる。

 あの日金太はノッポに必要なものを書いたメモを渡した。そこには自分の経験からきたものと、ノッポと相談して決めたものが書かれてあった。

 ノッポが揃えるものは、ペン型ライト、電子辞書それに最近買い換えたスマホで、金太はビニール紐、100円ライター、そして肝心な携帯電話だ。これがないとあの場所に行くことも帰ることもできない。

 以上のものは普段使っているものであったり、身近にあったりするものだからそれほど苦労はしなかったが、問題はほかにあった。それは、着るものと髪型それにノッポのメガネだった。そのなかで着るものはなんとかできそうだ。それとメガネはコンタクトにすればいい。だが髪型だけはそう簡単に変えられないので思い切ってそのままで押しとおすことにした。

「ノッポもテレビを観て知ってるだろうけど、着てるものがまったくオレたちとは違うんだ。でもどこで手に入れていいかわからないから、こうしよう……」

 学校の文化祭で時代物語をやることになったから、浴衣と下駄を用意することになった、とカアさんにいおう、と金太がノッポに提案した。

 勉強は吐き気がするくらい苦手な金太なのだが、こういったことには愕くほど頭の回転がいい。

 それを聞いてノッポは素直に金太のいうとおりにすることにした。文化祭を口実にすれば反対されることがないことはわかっていたからだ。

 だから浴衣や帯、それに下駄などが入っているので大きなカバンが必要だった。

「金太、浴衣はここで着替えてから行くト?」

「いや、向こうに行ってから替えよう。それより、オレいろいろと調べてみたんだ。まず彼女が書いてくれた住所なんだけど、グーグルの地図で調べたところ、旅籠町はたごちょうというのは、ちょうど秋葉原の駅と神田明神の中間だった。いまの町名でいうと外神田の2丁目あたりだ」

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