第9話
『おはるちゃん、お願いがあるんだけど、聞いてくれないか?』
『お願いって?』
おはるちゃんは訝しげな顔をしながら下駄の足をにじり寄せた。
『うん、オレがここにいることを誰にもいわないって約束してくれないか?』
『別に、いいよ』
『ありがと』
『金太はもう家に帰るの?』おはるちゃんは少し寂しそうにいった。
『ああ、もうそろそろ帰らないといけない』
オレは、そのときどうやったらさっきまでいた秘密基地に戻ることができるかわからなかったがとりあえずそういってみた。
『だったら、ちょっとここで待ってて』
おはるちゃんはそういい残すと、縁の下を出て急いでどこかに向かって行った。オレがいる位置からは、駆けて行くおはるちゃんの腰から下だけが見えていた。
おはるちゃんがいなくなってから、オレは胸ポケットからこの携帯を取り出して画面を見ていたとき、なんとなく法則がわかったような気がした。
ノッポの電話番号がヒントになった。つまり、090は別としてその次の1832が西暦年号だったんだ。だからもとに戻るには2015と表示させればいいと……。
しばらくすると、下駄の乾いた音が遠くから聞こえて来た。おはるちゃんだった。
『待たせてごめんね。これ』
おはるちゃんは着物の胸もとからやや黄ばんだ紙をオレのほうに差し出した。
『なに?』
『あたいの家の場所を書いてきたの。また今度来るとしたら、家の場所がわからないと来られないでしょ』
その紙片にはこう書いてあった。
“ かんだ はたごちょう一丁目 大黒や はる ”
オレは、あまり上手とはいえない字で書かれた紙片をしずしずと受け取った。
『ねえ、金太、今度はいつ遊びに来るの?』
『うん』
オレはすぐに返事ができなかった。というより、またここに来るなんて考えもしなかったからだ。
『……二週間後かな』
『にしゅうかん? なにそれ』
おはるちゃんは訝しげな顔で訊きなおした。
『つまり……十四日あとってこと』
『そういうことなのね。わかったわ、あたいも十四日後の同じ時刻にここに来てみる』
『ああ。じゃあ、さようなら』
オレは座ったままおはるちゃんに手首だけを振って別れを告げたあと、おはるちゃんがいなくなるのを確かめ、不安な気持のまま携帯のボタンを押した。
―――
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