第8話 3
「じつは、この前ノッポが帰ったあと、ここに座ってなんとかこの携帯が通じないかなと思っていじってた。そしてノッポの電話番号を打ち込んだそのとき、通話ボタンと間違えてどうやら違うボタンを押してしまったらしい。
すると突然目の前が真っ暗になって、その墨汁のような闇のなかにオレンジ色の渦がぐるぐると回りはじめ、躰がふわりと浮いたような気分になると、どんどんなかに引きずり込まれて行ったんだ。しばらくしてゆっくりと頭を振りながら目を開けて見ると、オレは薄暗い場所に尻を降ろして頭を抱えていた。ただ5メートルほど先には額縁のなかの絵を見るように、切り取られた陽の光が真っ白に光っていた。
オレはその場所がどこだかまったくわからなかった。そんなことを考えていたとき、遠くで子供のはしゃぐ声が聞こえてきたんだ。オレはその声を聞いてここが地獄じゃないことがわかってひと安心した。
でも相変わらずどこかはわからないまま耳を澄ませていたとき、ふいに背中のほうから、
『あんた誰?』
その声を聞いてオレは一瞬心臓が停まりそうになった。だってそんなところに人がいるなんて思いもしなかった。
『ううッ?』
恐るおそる声のするほうに顔を向けると、そこにはおかっぱ頭で赤い着物に黄色い帯の女の子が覗き込むようにしていた。みんなとかくれんぼをしてて、たまたま縁の下に隠れたらオレがうずくまっていたらしい。
『あんた、どこから来たの?』
女の子は警戒しながら話しかけてきた。
『あのう……』オレは口ごもってしまった。
『このへんの子じゃないよね、だって着てるものも変だし、髪の毛もおかしいもん』
そういう彼女もオレから見たら結構ぶっ飛んだ格好をしていた。
『うん、この近くじゃなくてずっと遠いところから来たんだ。ところで、ここはどこなの?』
『なに,あんたここがどこだか知らないの? ここは、神田明神の境内よ』
『神田明神? ってことは、東京の神田ってことか』
『とうきょう? ここは江戸だよ、え、ど』
オレはそれを聞いて頭のなかが真っ白になり、しばらくなにも考えることができなかった。
『あんた、ひょっとしてお役人に追われてるんと違う?』
『いや、そうじゃない……』
いま状況を説明しても彼女にわかってもらえそうにない。とりあえずオレは少しでも多くの情報を手に入れなければいけないと考え、
『きみの名前はなんていうの?』
『はるっていうの。みんなはおはるって呼ぶわ。あんたは?』
『オレは金太っていうんだよ』
『き、ん、た?』
『そう』
オレは名前を告げたあと、なぜかおはるちゃんとはじめて会った気がしなくなって、なんでも話せそうな気がした。そうだ、秘密基地に戻るためにはなんとしてでも彼女のちからを借りないと、あのテレビドラマで観た医師がタイムスリップをした〝JIN〟のようになってしまう……。
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