第6話

 金太は、話しの矛先を変えるためにズボンのポケットからかわり玉を出すとネズミの前に1個差し出した。

「食べていいよ」

「ありがと」

 ネズミはすぐに袋を破ると、投げ入れるようにして口に入れた。

「ところでさァ、おまえ携帯電話持ってる?」

「うん、持ってる。でも学校には持ってかないよ。学習塾に行くときとか、友だちと遊びに行ったときの家との連絡用。なんで? 貸して欲しいの?」

「そうじゃない。ただ訊いてみただけさ」

「前にも同じこと聞いたよね」

「そうだったっけ」

 金太はしまったと思いながらなに喰わぬ顔になっていった。いま金太の頭のなかには拾った携帯電話のことしかない。だからどうしても話がそっちに向いてしまう。特にあの場所から戻っていっそう強く頭にこびりついている。

「最近ノッポさんやアイコさんはここに来るの?」

 ネズミは口のなかのかわり玉を1回転がしてから訊いた。

「うん、アイコはほとんど顔を見せないけど、ノッポはときどきやって来る」

 愛子というのは、金太と小学校が同じで、中学に上がったときも偶然同じクラスになった。あまり親しくなかったので話を交わしたことはほとんどなかったが、クラス内でのイジメの対象になっていたのを金太が救い、それが切っ掛けとなってロビン秘密結社の仲間となった。いまでもメンバーの証であるキーホルダーを持ってはいるが、有名校を目指している愛子は勉強が忙しくて滅多に顔を覗かせることはない。

「うん」

 ここに来ないのは自分だけじゃないことがわかったネズミは、少しほっとした顔になってかわり玉をふたたび口のなかで転がした。

 そのとき、ネズミの携帯が狭い小屋のなかに響いた。ズボンの尻ポケットから急いで取り出すと、金太の目の前で話はじめた。1、2度大きな声で返事をすると、電話を切ってもとのポケットにしまった。

「金ちゃん、ぼく帰るわ。カアさんにスーパーで買い物を頼まれちゃった。またね」

 ネズミはそういい残すと、ボラーァと手を振りながら急いで小屋を出て行った。


 ネズミが帰って5分もしないうちにノッポが小屋に入って来た。

「ボラーァ」

「ボラーァ」金太がほっとした顔で返す。

「メールなんかよこしてからに、どげんしたト?」

 ノッポはズボンのポケットから取り出した携帯のメールを確認しながら訊く

「うん」

 金太はもぞもぞするばかりでなかなか話そうとしない。

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