第5話 2
数日後――。
学校から帰って秘密基地で例の携帯電話をいじっていたとき、突然扉がノックされた。
金太の心臓がゴトンと鳴った。ノッポが来たのだろうと思いながらゆっくり首を回すと、30センチほど開けた扉から覗いたのは、ノッポではなく遊び仲間のネズミだった。金太は昨日の夜ノッポにメールを送り、ここで待ち合わせをしていたのだ。
「ボラーァ。金ちゃん久しぶりだね」
ネズミは細い目をさらに細くしていつもの挨拶をする。
「ボラーァ。なんだネズミか」
金太は足先から頭のてっぺんまでゆっくりと視線を移動させた。ネズミはこの2年で金太より1センチも背が高くなっている。
「なんだって、金ちゃん誰か待ってたの?」
ネズミは後ろ手に扉を閉めながら唇を尖らせながら訊く。
「いや、そうじゃないんだけど……」正直いって金太はノッポが来るのを期待していた。「ところで最近おまえ基地に来ないよな」
金太は机の引き出しに携帯電話をしまいながらなに喰わぬ顔でいう。
「うん。2年になったとたん、カアさんが勉強、勉強ってうるさくって、なかなか家から出られないんだ。それに、基地に置いてあるマンガも全部読んじゃったし……」
ネズミは野球帽の上から頭を掻きながら金太の前に座った。
「そうなんだ。でもそんなおまえがなんでここに?」
「消しゴムがなくなっちゃったから、文房具屋に買いに行く途中、久しぶりだからちょっと覗いてみようと思って……。そしたら金ちゃんがいたっていうわけ。そういう金ちゃんこそここでなにしてるの?」
「いや、別に……」
「そんなことない。ぜったいになにかかくしてる。だっていつもの金ちゃんじゃないも」
「そんなことないさ」
ロビン秘密結社の「10の掟」のなかに、『けして仲間同士隠し事をしてはならない』という条文がある。金太が作成したものである。だがこれだけはいくらメンバーのネズミでも話すことはできなかった。
2年前、秘密結社を結成して間もない頃、メンバーのみんなが自分の宝物を持ちよることになった。金太は爺ちゃんにもらった古ぼけた万年筆、ネズミは魚釣りの小型リール、そしてノッポが持ってきたのは、メッキが剥がれて黄色くなったジッポーのライターだった。意外なことにこのライターが物議をかもし出す原因となった。
ライターに異常に興味を持ったネズミは、その日あったことを家に帰って母親に話すと、次の日には親しくしている金太の母親の耳に届いていたのだ。
学校から帰った金太は待ち構えていた母親に玄関先で問い詰められた。別にやましいことをしているわけではないので、事の一部始終をかくすことなくつぶさに話した。金太は必死だった。せっかく手に入れた秘密基地をここで手放すわけにはいかなかったからだ。
額に汗を浮かべながらなんとか母親を説得することができたのだが、それがトラウマとなって迂闊にネズミになんでも話せなくなってしまった。今回の携帯電話のことも例外ではない。
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