第2話お姉さんの理想の恋愛
僕は今、最近仲良くなったお姉さんとカフェでお茶をしている。
僕はクリームソーダ、お姉さんはカモミールティーを飲んでいる。
お姉さんは都内の大学生だ。大学名を聞くと、僕でも知っているキラキラした大学だった。
おしゃれな人がたくさんいて、勉強できる人がたくさんいる、有名な大学だ。
お姉さんは美人で勉強もできるし、優しくて、キラキラした人だ。
「すごいなあ、お姉さんは。
そういうキラキラした大学って、彼氏いる人とか彼女いる人とか多そう。
お姉さんは彼氏いないの」
僕はなんとなく聞いてみた。
「え、私?
いないよ。私、彼氏できたことないの。」
そこからお姉さんの一人語りが始まった。
==================================
私には「理想の恋愛」というものがあるの。
その理想のためなら、私は、恋人同士になれるかどうかなんて関係ないのよ。
―お姉さんの「理想の恋愛」って?
自分を高められる恋愛よ。その人のことを想うと、どんな苦しいことでも「がんばろう」って思えて…
それで、実際にどんな試練でも乗り越えられるのよ。がんばれるの。
前にね、こんな私でもね、好きになってくれた人がいたの。何人かね。
どの男の人とでも、いいところまでいったの。付き合う寸前ね。
でも、「もうお前にはついていけない」ってみんなに言われたの。
―直接「もうお前にはついていけない」って言われたの?
ふふ。ううん、これは単なる要約。
彼らは、まあまあ紳士的でまあまあ優しい人だった。
―なにそれ。「まあまあ」って。
ほめてるの、けなしてるの。
うふふ。どちらでもないわ。
彼らは、私がおだてられると調子に乗る人間だと知っていたんだと思う。
私の神経を逆なでしないように、怒らせないように、って……
たくさんのほめ言葉を私に向けてきた。
その人にほめられるのは、それが最初で最後だったの……。
「君は透明な水のように聡明で、冬の朝に積もった雪のように純粋な女性だ。
僕のような不誠実な男が相手では、誠実な君の美しい心の泉は、たちまち濁ってしまうだろう」
「君の眼は鋭い。これでもか、というほどに鋭い。
君のその目は冷たくも熱を秘めた氷か?
それとも僕を静かに突き刺すナイフか?
どちらにしても、君は、僕の邪な考えを常に冷静に見抜いているのだろう。」
―ふーん……。なんか、大げさなセリフだなあ。きっとほめ言葉を使っておけば逆ギレされなくて済む、って思ってたのかなあその人たち。
(たしかにお姉さんは雪や氷みたいに透明できれいなひとだけど……)
花や太陽、月みたいだ、……とも言われてみたかったのよねえ。
ちょうちょでもいいわ。蝶になって、花から花へ、飛び回るの。
―もう、お姉さんってば……。
(お花になったりちょうちょになったり、忙しいひとだなあ。
でも、もしお姉さんがお花なら、それは……)
ふふ。でもいいわ。この人たちは私の理想についていけない人だった、というだけのこと。向こうからリタイアしただけなんだから。
私、バカなくせによく考え事をするから、相手の気持ち、なんとなく想像して、わかっちゃうのよ、考えてることが。
ハグしたり、キスしたり、それ以上のことも……「しよう」「したい」「させて」って言われたけど……
私は、実際に相手に触れるよりも早く、相手と深いところで、
もうすでに繋がってる気がするの。私はね。
私はもっと気高い男性が好きなの。
簡単には触れさせないわ。
私に気安く触れるなんて不義理を犯した男は私にはいらないの。
―お姉さん、プラトニックだなあ。ていうか、潔癖症?
もしくはウブ?生娘?恥ずかしがりやさん?
もう、そんなことを言って……からかわないで。
なんでもいいでしょう。
愛するものを守り、育てることは、私の理想であり使命。
一度でも嫌なことをされたらずうっと根に持つけれど……
私は、愛するもののすぐそばにいる。そばにいたいの。
いつでも溶けて一緒になれるようにね……。
==================================
「……あら、あらあらあら」
「……なあに、お姉さん」
お姉さんは困ったように笑ってティーカップを持ち上げ、そのままお茶を飲む。
「アイスが溶けてるわ」
いつの間にか、僕のクリームソーダのバニラアイスが溶けて、下のメロンソーダと混ざり合っていた。
「ううぅ~、お姉さんのお話を聞いていたら、アイス食べるの忘れちゃってた」
「混ぜて飲めばいいじゃない。お腹の中に入れば一緒でしょう」
「そうだけど……お姉さん、さっきのロマンチックでプラトニックな考えはどこにいったのさ。
僕は、アイスはアイス、ソーダはソーダでいただくのが好きなの!」
そういうとお姉さんは楽しそうにうふふと笑った。また来ようね、とも言った。
僕はただうなづいて、細長い銀色のスプーンでかろうじてまだ固形として残っているアイスをすくう。
白のバニラアイスと、緑のメロンソーダが絶妙な割合で混ざっているひとさじ。
ぱくり。うん、おいしい。
結局、このくらいの一口がおいしいんだよね。
「そうでしょう。おいしいでしょう。好きなものどうしが一緒になったひとくちは」
顔を上げるとお姉さんは僕を見つめて微笑んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます