第2話お姉さんの理想の恋愛

 僕は今、最近仲良くなったお姉さんとカフェでお茶をしている。


僕はクリームソーダ、お姉さんはカモミールティーを飲んでいる。


 お姉さんは都内の大学生だ。大学名を聞くと、僕でも知っているキラキラした大学だった。

おしゃれな人がたくさんいて、勉強できる人がたくさんいる、有名な大学だ。

お姉さんは美人で勉強もできるし、優しくて、キラキラした人だ。


「すごいなあ、お姉さんは。

そういうキラキラした大学って、彼氏いる人とか彼女いる人とか多そう。


お姉さんは彼氏いないの」


僕はなんとなく聞いてみた。


「え、私?

いないよ。私、彼氏できたことないの。」


そこからお姉さんの一人語りが始まった。


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 私には「理想の恋愛」というものがあるの。

その理想のためなら、私は、恋人同士になれるかどうかなんて関係ないのよ。


―お姉さんの「理想の恋愛」って?


 自分を高められる恋愛よ。その人のことを想うと、どんな苦しいことでも「がんばろう」って思えて…

それで、実際にどんな試練でも乗り越えられるのよ。がんばれるの。


前にね、こんな私でもね、好きになってくれた人がいたの。何人かね。

どの男の人とでも、いいところまでいったの。付き合う寸前ね。

でも、「もうお前にはついていけない」ってみんなに言われたの。


―直接「もうお前にはついていけない」って言われたの?


 ふふ。ううん、これは単なる要約。

彼らは、まあまあ紳士的でまあまあ優しい人だった。


―なにそれ。「まあまあ」って。

ほめてるの、けなしてるの。


 うふふ。どちらでもないわ。

彼らは、私がおだてられると調子に乗る人間だと知っていたんだと思う。

私の神経を逆なでしないように、怒らせないように、って……

たくさんのほめ言葉を私に向けてきた。

その人にほめられるのは、それが最初で最後だったの……。


「君は透明な水のように聡明で、冬の朝に積もった雪のように純粋な女性だ。

僕のような不誠実な男が相手では、誠実な君の美しい心の泉は、たちまち濁ってしまうだろう」

「君の眼は鋭い。これでもか、というほどに鋭い。

君のその目は冷たくも熱を秘めた氷か?

それとも僕を静かに突き刺すナイフか?

どちらにしても、君は、僕の邪な考えを常に冷静に見抜いているのだろう。」



―ふーん……。なんか、大げさなセリフだなあ。きっとほめ言葉を使っておけば逆ギレされなくて済む、って思ってたのかなあその人たち。

(たしかにお姉さんは雪や氷みたいに透明できれいなひとだけど……)


 花や太陽、月みたいだ、……とも言われてみたかったのよねえ。

ちょうちょでもいいわ。蝶になって、花から花へ、飛び回るの。


―もう、お姉さんってば……。

(お花になったりちょうちょになったり、忙しいひとだなあ。

でも、もしお姉さんがお花なら、それは……)


 ふふ。でもいいわ。この人たちは私の理想についていけない人だった、というだけのこと。向こうからリタイアしただけなんだから。


 私、バカなくせによく考え事をするから、相手の気持ち、なんとなく想像して、わかっちゃうのよ、考えてることが。

ハグしたり、キスしたり、それ以上のことも……「しよう」「したい」「させて」って言われたけど……


私は、実際に相手に触れるよりも早く、相手と深いところで、

もうすでに繋がってる気がするの。私はね。


私はもっと気高い男性が好きなの。

簡単には触れさせないわ。

私に気安く触れるなんて不義理を犯した男は私にはいらないの。


―お姉さん、プラトニックだなあ。ていうか、潔癖症?

もしくはウブ?生娘?恥ずかしがりやさん?


 もう、そんなことを言って……からかわないで。

なんでもいいでしょう。



 愛するものを守り、育てることは、私の理想であり使命。


一度でも嫌なことをされたらずうっと根に持つけれど……

私は、愛するもののすぐそばにいる。そばにいたいの。

いつでも溶けて一緒になれるようにね……。



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「……あら、あらあらあら」


「……なあに、お姉さん」


お姉さんは困ったように笑ってティーカップを持ち上げ、そのままお茶を飲む。


「アイスが溶けてるわ」


いつの間にか、僕のクリームソーダのバニラアイスが溶けて、下のメロンソーダと混ざり合っていた。


「ううぅ~、お姉さんのお話を聞いていたら、アイス食べるの忘れちゃってた」


「混ぜて飲めばいいじゃない。お腹の中に入れば一緒でしょう」


「そうだけど……お姉さん、さっきのロマンチックでプラトニックな考えはどこにいったのさ。

僕は、アイスはアイス、ソーダはソーダでいただくのが好きなの!」


そういうとお姉さんは楽しそうにうふふと笑った。また来ようね、とも言った。


僕はただうなづいて、細長い銀色のスプーンでかろうじてまだ固形として残っているアイスをすくう。

白のバニラアイスと、緑のメロンソーダが絶妙な割合で混ざっているひとさじ。


ぱくり。うん、おいしい。


結局、このくらいの一口がおいしいんだよね。


「そうでしょう。おいしいでしょう。好きなものどうしが一緒になったひとくちは」


顔を上げるとお姉さんは僕を見つめて微笑んでいた。



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