ねずみ講退治のはなし
絶対真似しちゃだめよ。
わたしが通っていた大学では、一時期ねずみ講ってやつが横行していました。
ちょっと何年生のときだったか忘れちゃったんだけど。
化粧品類を売ってたので、マルチ商法ってやつかな。
わたし自身は、大学時代は根無し草みたいなやつでして、特定の誰かとべったり、なんて感じではなく、本当に無節操にそこらの人と適当に喋ってるやつだったので、それはそれは広ーく浅ーい交友関係を形成していました。
まあ、「一番仲のいいグループ」みたいなのはあったんだけど、それすらも2つ3つある、みたいな。
わたしは相手を知らんけど、向こうはわたしを知っている、みたいなのもザラでした。
カフェテリアでパックのいちご牛乳すすってたの懐かしいわ。
そんで、そんなわたしとは対照的に、ザ! 女子の塊! みたいな、とあるグループがおりまして。
だいたいいつも5〜7人くらいで固まってたんじゃないかなあ、どちらかといえば地味めな、とてもやんちゃしそうにはないタイプの子たちでした。
その子らがなんか、見てたらなかなか揃わない時期がありまして。
わたしは特に気にしていなかったんだけど、忙しいのかなーとか、まあ正直どうでもよかったので、でも、あるときね、そこのグループのひとりとたまたま一緒になったから、なんの気なくはなしをしたんですよ。
名前どうしよっかな、マカロニちゃんとかどうよ。
他に誰もいない講義棟のロビーのソファで、壁には「ねずみ講が横行しています、勧誘しないでください」みたいな貼り紙がしてありました。
わたしが「ねずみ講だって、いやあねぇ」みたいに言うと、マカロニちゃんが声を潜めて言うのです。
「あのねぇ、夏緒ちゃん、誰にも言わないでくれる?」
と。
おうおう、なんだいなんだいどうしたん、と聞きますよの姿勢を取ると、マカロニちゃんは小さな声で言うのです。
「あのね、みかんちゃんいるでしょ」
「うん、どしたん、喧嘩?」
「わたしね、あの子にお金払わされてるの」
「んん?」
聞けばなにやらその貼り紙の原因は仲良しグループのみかんちゃんで、彼女は友達、他人見境なく、よく分からない化粧品類を強引に売りつけているのだそうで。
マカロニちゃんもいつの間にやらみかんちゃんの餌食になっていて、なにがどうなったんか知らんけど家族、ジジババ含め全員が、あれよあれよと言いくるめられ、気づけば毎月それぞれひとり10万ずつみかんちゃんからよく分からない化粧品類を買わされているんだそう。
きみんち金持ちやな、払えるんかい、……とか思いつつ、なんじゃそりゃ、払わんでもいいんじゃないん、そんなん、なんとかならんの、と聞くわたしに、どうにもならんのだととうとう泣いてしまうマカロニちゃん。
仲良しグループだったはずが、いつの間にかみかんちゃんとその餌食たち、みたいな関係になっていたらしく、マカロニちゃんが「自分のせいで家族まで大変なことに」とかいうから、「いやそれどう考えても悪いのみかんちゃんでしょ」くらいしか出てくる言葉がありませんでした。
とにかくみかんちゃんには気をつけてね、と忠告してくれたので、うん分かったありがと、とわたしはお礼を言いました。
それからしばらくしまして、みかんちゃんが、唐突にわたしをランチに誘ってきました。
駅前に新しいパスタのお店ができたから、一緒に行ってみない?
根無し草にはよくあるお誘いだったので、まあ断るのも不自然かな、と思ったのと、「なにこれめっっっちゃ面白そうじゃーん!」とうっかりわくわくしてしまったので、わたしはほいほいとパスタを食べに行きました。
みかんちゃんは不自然なくらいににこにこしていて、化粧品のはなしをしてきました。
ところが、別に特定の商品のはなしをするでもなく、化粧水ってどんなの使ってるの? とか、コットンを2枚重ねにして使うと気持ちいいんだよやってみて! とか、よく分からないことばっかり言ってまして、うん、コットン2枚重ねくらいならやったことあるわ。で? みたいなリアクションしか取ることができず。
要するになにが言いたいん、あんた……。
みたいな鬱陶しい会話を繰り返すうちに、わたしは気づきました。
わたしこれ、お金払うほうじゃなくて、一緒に売りつけるほうに誘われておるのか……!
んで、仕舞いにはとうとう、
「今度ね、知り合いのところで食事会があるんだけど、一緒に行かない? 絶対楽しいから!」
とくるではありませんか。
ほほう、元締めのところだねー! と感づいたわたしは、いい加減よく分からないはなしに付き合わされてうんざりしていたので、よしきた! とそのはなしに乗ることに。
うーん長い!
分割!!
後半ちょっと待っててー!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます