すれ違い

 その頃、私はあてもなくは走っていました。


「ヘレンどこだ?」『あいつが行きそうな場所は・・・・・・』


 一つしか心当たりはありませんでしたが、その場所、いつも私たちが会う裏路地に彼女の姿はありません。そして、この時になって初めて、私はヘレンの事をこの場所でしか知らなかった事に気づいたのです。


「くそ!!」


 闇雲に町を走りましたが都合よく彼女に出会えることなどありません。

 道中幾度か私の窃盗の被害者に出会いましたが、私はそれを暴力で片づけました。


 私は伝心によって考えが読まれる環境で生き抜く為に他社より随分と腕力、脚力が発達していた様で、それに気づいた驚きは小さくはありませんでした。しかし、それとは比にならないほどに鈍感であった事に気づいた落胆が心を占めていました。


「お前、ヘレンを見なかったか!?」

「し・・・・・・知らねえよ。誰だよ!!」


 殴ったついでに問いただすも、返ってくるのはそんな言葉ばかりでした。

 彼女は私以上にこの町と関わりのない生活をしていたのでしょう。私はその時になって彼女が幸せな生活とは程遠い暮らしにいたと知ったのです。


「はは・・・・・・勝手だよな」

『俺はお前が羨ましかった。羨ましいものだと決めつけて、それに便乗した気になっていた。お前の気も知らず・・・・・・無責任に励まして・・・・・・』


 もしも、私がヘレンの背中を押さなければ、こんな事件は起きなかったのかもしれないのです。そして、手遅れを告げる雨が降り始めました。


「雨か・・・・・・もしかして」

『家に戻っているかもしれない・・・・・・あいつは案外図太いからな』


 ・・・・・・私は手遅れだとも知らず、未だに悠長な考えを洩らしながら彼女の家に向かったのです。既に、暴漢によって部屋中を荒らされたその家にです。

 

 床に散乱した衣類が、零れたミルクと転がったままのコップが、そこに起きた不吉を物語っていました。


「うおおぉぉぉおおおおおおお!!」


 私は再び走り出した。

 ただ、今度はある程度の根拠をもって彼は走っていました。そして、自身を辛気臭い世界に追いやった連中に感謝さえしました。


 悪い噂は悪い場所に集まるのです。

 複数人に荒らされた部屋を見て、私はすぐに犯人と目的、居場所を悟りました。



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