自暴自棄
これは後に彼女の日記を見つけた私が知ったことです。
ヘレンに辛く当たった姉はその後、大きく心を乱した様です。
「最悪……」
姉は最悪の機嫌で煙草に火を灯した。
彼女は未成年でしたが、その味を知っていました。別に美味いと感じた事なんてなく、それを吸引する事や悪びれた行動を取ることは自分が不出来な事への理由になる。それが目的だったのです。
彼女を常に締め付けるのは妹のヘレンと同じ何かしらの病があるかもしれないとい不安で、ヘレンを嫌い距離を置くのは彼女とヘレンを周囲の比較対象から遠ざける為であり、悪びれた行為は万が一自身に欠陥を指摘されたときに理由になるものを求めての事で、そういう意味でした。
そして、その行為はヘレンとの関わりに比例するようにエスカレートしますから、その日の彼女には今までよりも悪い行いが必要でした。そこで彼女は普段通わない治安の悪い酒場に入り込み、見るからに素行の悪い連中の溜まり場で煙草を吸引しました。
「へへ……彼女ぉ元気?」
しかし、こういった場所に女性が一人で出歩く事は危険が伴います。彼女はそれを自覚するのが幾分遅すぎました。
「ほっといて!今機嫌悪いの……」
話しかけてきた男を一蹴する彼女でしたが、男はそれを意に反しません。どころか薄ら笑いを浮かべて話を続ける。
「へへへ……機嫌が悪いの?ふぅーん、じゃあ元気になるとこ行こうぜぇ」
下卑た言葉に飄々とした態度、その全てが今の彼女を苛立たせていた。
「しつこいわね!!」
それは男が彼女の肩に手が触れる寸前でおきました。
彼女の鬱憤の捌け口が男へと向かい、その平手が男の頬へと向かった。しかし、それはあらぬ方向から伸びた手によって止められます。
「なっ!?」
当然の結果です。
そもそも、この男一人であっても、彼女に逃げ道があったかは怪しいのですが、それ以上に、現在の環境で彼が一人で異性に話しかけていると解釈した事自体が彼女の幼さでした。
男達は馴れた手つきで彼女の両手を縛り、口に縄を噛ませると酒場の裏口へと移動しました。ここは治安の悪い酒場です。これはその理由で、彼らはその原因でした。
「んんっ!!」
男達は裏口にあった隠し部屋に入ると彼女の口につけていた縄を無造作に外します。外した時に端が擦れて彼女の口からくぐもった声が漏れると誰からともなく下卑た笑みを浮かべ相談をします。
「誰から楽しもうか?」
「いやっ!!やめなさい!!」
男の下卑た笑みに彼女はこれから起きる事を理解し、出来る限りの抵抗を試みましたが、その声はむしろ男達の猟奇心に火をつけたに過ぎず、男の一人がニタニタといやらしい笑みで近寄り、彼女の首を撫でました。
「やめるわけないだろ?そうだな……もっといい子でもいれば別だが……」
それが彼らの手口でした。
当然、彼らは何があっても彼女を見逃さない。しかし、一頭の獲物が二頭に増える分には大歓迎なのです。そして、この手法は意外に成功する事を男達は経験済みでした。人間は窮地においてしばしば正常な判断力を失う。さらに如何にか細くも自身が助かる唯一の手段となれば尚更です。
「……妹が……いるの」
彼女は少し後ろめた気にそう口にした。
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