第29話 「 Greatest Teens (2) 」
グレイステスト・ティーンズが開幕した。
俺たち《My Shocking dinner》は2組目。
やっぱり盛り上げなきゃウソでしょと言うことで、力の限り演奏した。
______________________
「いよいよだな」
ステージから聞こえてくる歓声を受けて、高梨部長が呟いた。
1組目のバンドの演奏が始まったのだ。
俺たちは楽屋で出番を待っていた。
他の出場者たちはそれぞれバンドやユニットで固まって、緊張した面持ちで楽器の手入れをしたり最後の打ち合わせをしたりしている。
中には入念にメイクのチェックをしたりスマホを見たりしている子もいて、彼ら彼女らなりのリラックス方法で出番に備えている。
「《My Shocking Dinner》の方はこちらへお願いしまーす」
スタッフの人の案内で、俺たちはステージ脇へ移動する。
『ありがとうございました!またどこかでお会いしましょう!』
前の出番のバンドの退場の挨拶が終わった。彼らと入れ違いに、俺たちはステージへ上手から出た。
『こんにちは〜、《My Shocking Dinner》で〜す』
のほほんとした灰田のMCから俺たちのステージは始まった。
『凄いバンド名ですね』
MCのお姉さんがバンド名にツッコミを入れる。
『ほんとですよね〜。うちのドラマーが付けたんですけど〜、ウチらは由来を知らないんですよ〜。ね〜ぶちょ〜、なんなんですか〜このバンド名〜?』
まさか振られるとは思ってもみなかった部長は、
『ぬ⁉︎ そ、それはだな…あの、うちのいもうゲフンゲフン!いや、何でもない。ただの思いつきだ、思いつき』
いま妹って言おうとした? したよね部長。目線がちらっと、りんごが居る楽屋の方向へ向いたし。
ほんと、何があったの? バニラアイス丼にりんごは関係してるの? 教えて、切実に!
だって、この間りんごが俺に『今度お菓子作ってるんですよ。出来たらフーヤン先輩にもおすそ分けしますね!』とか言ってたから!
足元のチューナーを見つつ
ある程度場を温めたところで、灰田の雰囲気がガラリと変化した。
さ、やるか。
『それではイってみましょう!《My Shocking Dinner》‼︎』
MCのお姉さんのアオリで俺たちは、一気に音を出した!
『 変幻自在 最高 僕らはピエロ
きっと already 始まっている
終われ 終われ 終われ 終われ
絡まるガラスと古びたコンクリート
それじゃ水と油も呆れてしまう
存在意義 探し続ける 放課後
不満ばかりたらし続けて 願うはEncore
Where there’s a crossing
Nothing but the war
What do you mean ?
It’s not what I knew !
Do not impose
押し付けないでよオトナの事情
変幻自在 最高 僕らはピエロ
きっと already 始まっている
終われ 終われ 終われ 終われ
絡まるガラスと古びたコンクリート
それじゃ水と油も呆れてしまう
先天的な才能 お前ら絶無
だって きっとそうなんでしょ?
変われ 変われ 変われ 変われ
下手くそ相手じゃ興奮できない
それじゃみんな踊ってられない
……………』
【コドモとオトナの舞踏会】と言う俺たちのオリジナル曲だ。
安定感がある部長のドラムスに乗せ、ユダのうねる様なベース、上品な御堂先輩のキーボード、俺のテクニカルなギター、そして変幻自在な灰田の歌声。超個性的なプレイが面白いまでに融合し、手前味噌ではあるが会場を大いに沸かせる。
1曲目が終わり、続いて2曲目もノリの良いロックナンバーを演奏する。
『Hey !Hey !Hey !Hey !』
灰田は
観客もそんな灰田にノセられて、手を振ったりヘドバンしたりと忙しそうだ。
『Say ho ! 』
『Say ho ! 』
ちょっと古いのが逆に新鮮に感じるコール・アンド・レスポンスで客と一体感が生まれる。
普段のほほんとしているくせに、ステージに上がると急にアクティブになるんだよな、灰田って。あ、俺も人の事言えないか。
だって俺も、
3曲目になると、観客から『おおっ!』と言うどよめきや、『きゃー!』っと言う女の子の歓声が沸き起こる。
灰田の歌声の激変っぷりを目の当たりにしたからだ。
1曲目はハイトーンボイス。
2曲目はデスボイス。
そして3曲目のバラードになると、透明感のある少年のような歌声に変化した。
これぞ灰田のレインボー・ボイス (命名、俺)。
初めて俺たちが聞いた時もすげえと思ったし、未だに思う。
灰田の今日のステージ衣装はチェック柄をあしらったロックテイストの服。アーティストのLiSAが好きって言ってたから、それをイメージしたんだな。
ダメージ加工された黒いシャツを押し上げて灰田の―――歌声と双璧を成す武器―――胸部に装着された (?)たわわな2つのウェポンがバイン!っと自己主張しちゃってからして。しかもホットパンツで足の付け根まで露わにしちゃってもう、灰田さんったら……。
これで灰田は隠れファンを増やしたな。
ちなみに灰田には学校内外に少なくない数のファンが存在する。灰田のくせに生意気な。……俺にはいないのに……。
あ、レイラと清音の姉妹はファンって言ってくれたな。それを支えに生きていこう。うん。
ともあれ、俺たち《My Shocking Dinner》のステージは成功したといっても良い出来だった。
_____________________
出番が終わるなり、俺は「少し出て来る!」と他のメンバーに告げて会場の外へ駆け出した。
文化ホールの隣に併設されている駐車場には黒のセダンが停まっていた。
「ゲン!」
セダンの前には、レイラと聖が立っていた。
「悪い。待たせたか?」
「
レイラはウインクして言った。
「ゲン、これ」
聖が俺に差し出したのは、真っ白のギターケース。
「バッチリ整備しといたから」
「ああ、サンキューな」
俺は受け取り、礼を言った」
「ねぇ、ゲン」
「ん? なんだ、ジリ?」
「アタシは前にもゲンとレイラの不思議な力を見たし、それが凄い力を持ってるっていうのも知ってる。でもだからって、危ないことしていいわけじゃないからね」
両手を腰に当て、怒った様な困った様な、不安そうな、いろんな表情をして言った。
「ああ、わかってる。心配してくれてんだな、ありがとう。大丈夫だ、俺は自分から危ないところに行く様な性格じゃないって、昔から知っているだろ?」
という俺に「はぁ」とため息をついてからジリは言う。
「自分からは好んで行かないけど、困ってる人がいたり、誰かを助けるためなら迷わず行くでしょ。アンタはそう言うやつよ」
「そ、そうか……?」
俺はたじろいだ。自覚はないのだが、そうなのだろうか?
「そうだよ」 と聖は笑い、「ま、仕方ないか。それでもアンタは何とかしてきたもんね。アタシはアタシに出来ることをした。だからゲンはゲンにしか出来ないことをしなさいよ」
そう言った。
俺をよく知る幼馴染の言葉に、俺は―――
「ああ、任せろ!」
力強く頷いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
男は薄明かりの中にいた。
埃っぽい匂いがマスク越しでも感じられる。
だが男はそんな瑣末なことは意に介さない。
頭にあるのは、これから起こる出来事への期待とこれまでの回想。
今日、全てが変わる。
今日、全てが報われる。
「キシシシシ」
自然と笑いがこみ上げてくる。
思えば
しかし、その偶然を手にし、見事傑作に仕立てたのは自分の実力。自分にしかなし得なかったと思う。
であれば、もはや運命と言って良いのではないか。
運命。
そう、
もう誰にも邪魔はさせない。
男は薄闇の中に星の様に灯る制御盤のランプを見つめながら、成功への期待と興奮を味わっていたが、陶酔のひと時を破る無粋な電子音が鳴った。
電話の着信音だ。
「チッ」と舌打ちし無視しようかと思ったが、ディスプレイには男の協力者の名が表示されていた。
この協力者がいなければ男の願いは果たされなかっただろう。いや、あの者と出会ったからこそ男はアイデンティティを得た。今の男はその時生まれたと言っても過言ではない。
「もしもし?」
『―――ボクだ。計画を少し変更する。実行を早めよう』
「え?何でだぁ?」
どう言うことだろうか。疑問が頭を支配する。
しかし、次の言葉で男の疑問は全て吹き飛ばされ、代わりに焦りが席巻した。
『侵入者だ』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます