第10話「 What that hell ?」




「結局のところ、は何だったんだ?」


 ストラトをギグバッグにしまいながら俺はレイラに問うた。


 ちなみに炎の巨人はとうに姿を消している。


「ああいった異形の生物がこの世界に出現すること自体は、稀にあるわ。それこそ古い時代からね。日本の文献にもあるでしょう、妖怪とか。ああいった創作フィクションの中には、先ほどみたいな怪物がモデルになったものもあるらしいわよ―――それbyよりも the way


 夜の川縁。灯などは殆ど無く、相手の顔も陰に隠れて見えにくい。


 だというのに、この時のレイラの表情はなぜだかよく見えた。


 目は細められているが、決して笑っていないし、口は三日月型に邪悪に歪んでいる。


 彼女の周りには禍々しいオーラが渦巻いていた。


「な、何だよ?」


「Darling , you have something to say to me , don't you ?(ダーリン、私に何か白状することがあるのではない?)」


「は?何の話だ、藪から棒に」


 よく解らないなりに、俺は警戒を強めた。


 彼女が俺を『ダーリン』呼ばわりする時は俺にとって何か良からぬ方向に話が進む時だからだ。


 そして彼女が英語メインで話しだす時は、驚いていたり―――と、感情的になっている時だ。


「I’ll give you a hint . Why don’t you remember your action all of today? (ヒントをあげるわ。今日一日の行動を思い出してみて)」


 頼むからもう少しゆっくり喋って……いや止めよう。火に油を注ぐだけだ。


「今日……一日?」


 今日は何をしたっけ?


 朝起きて学校へ行って、普通に授業を受けて、部活は行かず水瀬と待ち合わせして、水瀬にギターを教えて、飯食ってまったりしてたらこの騒ぎだ。


 取り立ててレイラの気に触ることをした覚えはない。


「???」


 しきりに首を捻る俺を見て、彼女は「ふぅ……」とため息をついた。


「あくまで白を切る気ね……。I know what you mean. I will raise your exercise menu three times tomorrow.(良いわ。明日の特訓メニューは三倍に増やすようにしましょう)」


 手を頬に当て、まるでイタズラっ子を叱る母親のような困り顔で、レイラは鬼の宣告をした。


「ま、待て待て。三倍だと⁉︎ 正気の沙汰じゃないぞ!ていうか、なんでそうなる?」


 週に2回ほど行われているレイラとの魔術訓練。その内容はとても活字にできないほど過酷なものだった。それを三倍など、冗談じゃない。


自分の胸にAsk訊いてみなさいyourself


 プイと顔を背け、自分で呼んだ仲間の車に一人で乗って帰ってしまった。


「おいおい……マジかよ」

 

 何か最近も似たようなことがあったななどと思いながら、俺は走り去るタクシーを見送った。



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