第3話「 The little devil has come 」




「何の用だなんて、寂しいことを言わないでゲンキ。貴方に会いに来たに決まっているじゃない、


 白百合のような笑みを浮かべたレイラ。


 余計なことを言わなければ、俺も見惚れていたかもしれない。


 予想通り、ザワッと部室がどよめく。


「おい!何度も言っているが妙な呼び方をしないでくれ!みんな、勘違いしないでくれよ。レイラは悪戯好きだから、俺を揶揄からかってるだけだぞ?」


 前半はレイラに猛然と抗議し、後半は部員達に必死に弁解した。


 だがりんごは世界がもうすぐ滅亡すると聞いたような絶望的な顔をして、香山はそんなりんごを苦笑しながら眺め、その他の部員は俺を白い眼で見ている。


「〜〜〜っ‼︎レイラ、ちょっと来てくれ」


  針のむしろから逃れるため、レイラの手を引いて部室から離れた廊下へ連れ出した。


もうI need you いいto releaseかしらmy hand。もう少し優しく握ってほしいわ」


「あ、ああ、悪い」


 心なし力強く手を握っていたらしい。俺は慌てて手を離した。


「それで?お前がわざわざ部活中に顔を出すなんて、よほどの用事なんだろ?」


「重要といえば重要ね。それなりの職責にある私が、わざわざ足を運ぶのだから。でも用件は先ほど伝えたはずよ? 貴方に会いに来たのよ」


「は?」


「だから、貴方に会いに来たと言っているでしょう?」


 プイッと顔を背けるレイラを、俺はマジマジと観察する。


 この金髪少女と知り合ってひと月強。


 今まで何か用事ある時は、連絡して落ち合うのが常だった。


 連絡もなしで急に現れるのは、何か―――彼女の絡みの―――トラブルに関係することの可能性が高いと思っていたのだが……。


 よく見ると、レイラの耳がわずかに紅くなっている。


「え、何? マジで会いに来ただけ?」


「だからそう言っているでしょう?Don't have me say again and again.(何度も言わせないで)」


 そう言って少し頬を膨らませるレイラ。


「えっと……そりゃまた何でだ?」


「単に、貴方が普段の練習をどのようにしているのか気になっただけよ。忘れたわけではないでしょうけれど、貴方はのミュージシャンよ。プロディーサーとしてマネージャーとして、貴方の周囲の環境を把握するのは当然だわ」


 下から俺を睨み上げるレイラ。だが幼い顔立ちと両手を腰に当てている所作のせいか、愛らしい雰囲気しかしない。


「そ、そうか。そりゃ済まなかったな」


「それに……ゲンキを出来るだけ早くスターダムに押し上げるには私たちが一致団結しなければならないわーーー私たちのの為にもね」


「ああ、そうだな」


 俺は表情を引き締め、頷いた。


「あと、今日はゲンキと一緒にオフィスまで行って、の訓練をゲンキにしてもらおうと思ったのもあるわ」


「アレ……《魔術》か」


 ニヤリ、とレイラは笑った。


ええ、You'reそうよlight


 レイラ・マクファーソン。


 彼女こそ俺の人生を一変させた人物。


 学校の同級生としてだけでなく、プロディーサーとして、そして《魔術師》としてのパートナーとして、俺の人生に深く繋がることになってしまったのだ。


 レイラとの出会いは、全くの偶然だった。


 ひと月ほど前の夜の街で、俺は数人の柄の悪い男達に絡まれていたレイラと会った。


 成り行きで彼女を救けることになった俺は、彼女の『ギターを弾け』という助言により、持っていたギターを弾いた。


 正直訳がわからなかったが、その理由はすぐに判明した。


 俺のギターの音を媒介として、レイラは《魔術》を使ったのだ。


 レイラは『悪い魔法使い』の暗躍を止める為に、俺に助力を要請して来た。


 どうやら彼女には魔術師として何らかの欠点があるらしく、レイラ曰く、俺には彼女の欠点を補える能力があるという。


 こうして俺は、半ば成り行き任せでレイラに協力する羽目になったのだった。




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