第38話:何事にも代償は必要

 教室に戻った樹は一条ともに席に着いた。

 その際に朝比奈と目が合いウィンクされった。それは成功のサインであった。


「つっちーお昼は何食べたの~?」

「焼きそばパン三個だね」

「案外食べていた……つっきーは?」

「俺か? 俺はソースかつ弁当を食べた」


 学食のソースかつ弁当は美味いんだよな、と一人頷いていると朝比奈も頷いて賛同していた。


「わかるよ。あれは最高だよ!」

「だよな」


 一条も頷き、陽ノ下も食べたことがあるのか頷いていた。

 この場で食べたことがないのは天宮だけであった。


「あの、美味しいのでしょうか?」

「「「美味しい!」」」


 樹、一条、朝比奈、陽ノ下の四人の声が重なった。

 朝比奈が、今度一緒に食べようね、と言ったところで昼休みが終了してしまった。

 みんなが席に着き少ししって授業が始まった。そして、授業が始まってすぐに朝比奈からメッセージが来た。


『まっしーから誕生日聞けたよ♪』

『本当か?』

『うん!』


 朝比奈が樹の方を振り返りグッドサインを送った。

 天宮が不思議そうにこっちらを見やったのだが樹は、気にしないでくれ、と天宮に小声で返した。

 少しムスッとした顔の天宮であったが、そのまま授業を聞くために前を向いた。


『ありがとう』

『それで誕生日は――って、教えて欲しい?』

『教えて欲しい』


 勿体ぶらずに教えて欲しいところだ。


『ん~、どうしようかな~、最近駅前に美味しいクレープ屋さんが出来たんだよね~。食べてみたいな~なーんて』


 これは奢ってやらないと教えてくれないのだろう。

 別に天宮の誕生日を知るのに、クレープなら安い代償だった。


『……分かった。奢ってやる。だから教えてくれ』

『やったぁぁぁ!』


 しかもスタンプ付きで送ってきた。


『教えてくれ』

『いいよ。まっしーの誕生日は――十二月二十四日だよ。まさかクリスマスイヴの日だったとはね』


(クリスマスイヴか……丁度天宮と約束した日だったな)


 丁度会うんだ。ならクリスマスプレゼントと一緒に渡す方がいいのだろうか、と悩む樹。

 天宮の趣味もわからない。だが、天宮の自宅にはぬいぐるみがそれなりに置いてあった。


(ぬいぐるみにしてみるか?)


 考えても分からないものいは分からない。樹はプレゼントのことは後で考えることにした。


 授業が終わった放課後、樹は一条と朝比奈を連れ――いや、朝比奈に連れられ礼のクレープ屋さんに来ていた。


「ここのクレープ屋さんだよ! つっきー、約束通り奢ってくれるんでしょ?」

「約束は約束だ。好きな物選んでくれ……」

「やったぁぁぁあ! 今なんでもって言ったよね? ね?!」

「ん? ああ。なんでもだ」

「やったぁぁあ!」


 ジャンプして喜ぶ朝比奈とは対照的に、一条は焦っていた。


「な、なあ樹……」

「ん?」

「本当になんでもでいいのか?」

「当たり前だろう。クレープなんてどうせ――」


 いいながら値段を見た樹。

 メニューにある『スペシャルパフェ』の値段が千五百円していたのだ。


「おい朝比h――」

「スーパースペシャルクレープ一つ下さい!」

「遅かった……!!」


 膝から崩れ落ちる樹の肩に一条は、どんまい、と言って手を置いたのだった。



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