第12話:面白い家族

 学校が終わりその日の夕食。


「それで樹。真白ちゃんとはどうなのかしら?」

「どうなんだ?」

「どうなのお兄ちゃん?」

「──ゲホッゲホゲホッ! な、何を、聞いてるんだ」


 盛大にむせてしまった。これも全て楓と東、菜月が悪い。


「お兄ちゃん汚い!」

「マナーが悪いぞ樹」

「まらまぁ~、しっかり拭きなさいよ?」


 何故か樹が悪く言われている。樹は口元を拭い水を飲んだ。そして口を開いた。


「お前らが悪いんだぞ!? それに俺と真白そんな関係じゃない」


 樹の言葉を聞いた三人はと言うと、ジト目を樹に向けていた。

 ほんとうなの、とでも言いたげな顔だ。


「ほ、本当だって」

「ふ~ん。そう言う事にしておくわ」

「今はまだいいか」

「ちぇっ」

「おいお前ら! 人に聞いておいてその態度はなんだよ!? 悲しいんだけど」


(それと絶対分かってないぞ……)


 樹はガックシと肩を落とし、食事を続けるのだった。



「ぷはぁ~、やっぱり風呂は気持ちいい」


 樹は湯船に浸かりながらくつろいでいた。

 散々家族から馬鹿にされたような扱いを受けた樹。


「本当に友達なんだけどなぁ……」


 そう呟いていると、風呂の扉が開かれた。

 振り返りそこにいたのは──東であった。


「どうしたんだよ──って入るのかよ!?」


 そう。東は脱いでいたのだ。

 桐生家の風呂は二人が余裕で入れるほど広い。


「たまにはいいじゃないか」


 東はそう言って体と頭を洗いだした。


「マジで一緒に入るのかよ……」

「当たり前だ」


 父さんと一緒に風呂入ったのはいつ以来だ、と考えていると流し終えた東が湯船に入ってきた。


「そんじゃ俺は出るよ」

「まて」


 立ち上がろうとした樹を、東は肩を抑えて止めた。

 樹は東を見て口を開いた。


「なんだよ……」

「樹待て待て。男同士の話をしようじゃないか」

「急になんだ?」


 樹は訝しげに東を見る。

 そんな樹に気にすることなく東は話始めた。


「これは俺が楓さんと出会ったときだ」

「いや、父さんと母さんの話は聞きたくもないんだけど……」


 樹の声は東の耳には入っていなかった。


「あれは俺がまだ高校二年生のときだ……」

「何勝手に話進めてんだよ」


 やはり東には聞こえていなかった。


「まあ、いつものように人助けをしていたら、道に迷っていた楓さんに出会った。道案内をしてそれきりだと思っていたらまた会ってな。俺はこれが運命だと思った」


(長くなりそうだな……)


「それから良く話すようになり、楓さんと電話番号とアドレスを交換した。夜も良く電話とかで話すようになってな」


 イマイチ東が何を言いたいのか掴めない樹。

 だが、東は何かを樹に伝えたいのだろう。


「話すようになってから半年して告白したんだ。「好きです」ってな。まさか楓さんも俺のことが好きだったとは思わなかった」

「……結局父さんは何が言いたいの?」


 東は樹の目を見て言った。


「お前にもチャンスがあるって事だ」

「真剣に聞いて損したわ!!」

「お、おい樹」


 東の制止を無視した樹は、風呂を上がって出ていくのだった。


「まだチャンスはあるぞ、樹……」


 東は一人きりとなった風呂でそう呟くのだった。


 風呂から出た樹はリビングでくつろいでいた。

 そこに菜月が話しかけてくる。


「お兄ちゃん。天宮さん可愛いよね?」

「当たり前だろ。学校一の美少女だぞ。しかも聖女様なんて呼ばれてる」

「聖女様?」


 菜月が分からなさそうだったので、樹は天宮が聖女様と言われる説明をすると。


「確かに聖女様みたいだった……お兄ちゃん頑張ってね!」


 そのまま菜月は立ち去ってしまった。


「だから何が言いたいんだよ……」

「樹コーヒー飲む~?」

「ん? ああ貰うよ」


 少しして、お茶を手に持ってきた楓は、樹の隣に座った。


「はい」

「ありがとう」


 樹はテーブルに置かれたカップを手にとり口に含んだところで、楓が話しかけてきた。


「樹」

「どうしたの母さん?」


 呼ばれ横を振り向いた樹。楓の瞳は樹をしっかりと見据えていた。


「な、なに?」


 妙な緊張感に、樹はツーっと汗が頬を伝う。

 嫌な予感がした樹は、何か口実を立てて逃げようとしたが遅かった。


「母さんは良いと思うの。優しそうだから」

「だから何の話をしてるの!?」


 楓は続ける。


「樹、恋愛の三大原則は知っている?」


(何故恋愛になるんだ……?)


 まあいいか、と思いながら楓の質問に適当に答える。


「友情、努力、勝利?」

「それは違う方の三大原則よ。いい? 恋愛の三大原則はタイミング、フィーリング、そして──ハプニングよ」

「何を言ってるの!? しかもそれは青春ラブコメだわ!」

「そうよ。参考にしておくのよ。それじゃお母さんは寝るわ」

「ちょっとま──」


 楓は先に部屋から出て行きリビングに残るは樹のみ。

 樹さ呆然と立ち尽くす。

 そこに東が風呂から上がってきて、呆然と立ち尽くす樹を見た。、


「樹何やってるんだ?」

「……今日はもう寝る」

「そうか? 何かあったのか?」


 それはあんたらのせいだろう、と言いたい樹だったのだが、また面倒臭いことになりそうなので言わないことにした。


「大丈夫だ。もう無性にベッドに行きたいんだ」


 樹はそう言って部屋に戻ってベッドに横になった。

 そして、今日の家族のことを考えていた。


「みんな何が言いたかったんだ?……それに何故恋愛の話なんだか」


 考えても分からないものは分からないのだ。


(まさか天宮のことを言っていたのか?)


「そんなわけないか。それに精神的に疲れたし寝よう」


 樹は電気を消し寝るのだった。



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