第33話母さん(sideカイト)

「フォオオオオオオオオオオオ!」(やめろぉおおおおおおおおお!)


 俺は叫んだ。体当たりされた母さんに向けて大声を張り上げて。俺に当てられていた光の閃光が母さんの体当たりにより、母さんが変貌する甲冑怪人マダムーンに向けて放たれた。


 その瞬間、下方で母さんの叫び声が鳴り響いた。


「キャアアアアアアアアアアア! あ……あ……あづ……い……」


 それは怪人が吐く声ではなく。正しくは、人間の女性の悲鳴だった。放たれた閃光は、甲冑を貫き空へと舞い上がる。甲冑を羽織った母さんは体を反らせ、空を舞った。


 そして、髪の毛が兜を覆い尽くし、地面へと降下していく姿が見られた。俺はピンクタイツの百花モモカを離し、猛スピードで落ちていく母さんを助けようと意識を集中させたが、体の自由が利かない。すると突然頭の中に声が鳴り響いた。


【悲しかろうが、放っておけ! お前の使命は、緑タイツたちを殲滅することである!】


 俺はその瞬間、怒りが爆発した。それは母さんを、こんな目に合わせた緑のタイツを着る英雄ヒデオたちもそうだった。だが、大王に最大限に怒りを感じた。頭の線がブチッ!っと切れる音がした。その瞬間だった・・・。俺の意思で、体が動くことに気づいた。そして俺は叫んだ!


「フォオオオオオオオオオオオオフォフォフォフォフォフォフォオ!」

(うるさい大王ぉ、黙れ、俺の体だぁ。自由にさせやがれ!)


【貴様、まだ自分の意思を通せるとでも?ウヌヌヌヌッ。やはり真野勝利しんのかつとしの息子というべきか……だが!】


 また体を締め付けるような波動が、俺の怪人の表面を通して内部まで伝わる。しかし俺は、もうプッツンしていた。そんな波動のことなど、御構い無しに叫んだ!


「フォフォオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

(邪魔をするなぁ。大王ォォォォォッォォォォ!)


 その瞬間。俺の体から光が放たれ、金色の体が輝かしく光り輝やいた。瞬時にして、俺は、落ちる母親を抱きかかえることに、成功した。そして、地面にゆっくりと降りる。


「フォオオフオオ!」(母さん、母さん!)


 母親を何度も叫んだ。ゆっくりと腕を動かし、光り輝きながら徐々に甲冑が剥がれ、人間の姿に、戻る母親。俺は、荒れ果てた地面に、母親をソッと寝かせた。俺の腕も、金色ゴールドに光放ちながらも、徐々に人間の姿に戻るのが感じられた。

 しかし人間の姿に戻るが、金色ゴールドの輝きは、保たれたまま。周りに、バリアが貼られたように、波動の波が、地面の小石などを、宙に浮かしていた。


「母さん!」


 ゆっくりしゃがみ込むと、母親の手を取った。まだ、ぬくもりがある。生きている証拠だ。しかし、母親の息は荒く、今にも、息絶えそうな勢いだ。

「くそっ!ゆるさんぞぉ。お前ら。英雄ヒデオ百花モモカ。そして、そこの緑のおっさん」


 緑タイツ、英雄ヒデオたちが、俺の姿を見て降りてくる。近づこうすると、怒りを爆発させて、英雄ヒデオ百花モモカを、波動領域の内側には入れずにいた。しかし、もう一人の緑タイツのおっさんは、声を張り上げながら、俺の元へと、やって来ようとする。


栄華えいがさん。奴は、まだ、波動を発動しています。気をつけて!」

「構わん。俺の仕事はこれからだ。見せてみろ。カイト君」

「何だと? お前は、列車にいた緑のおっさんだろうが。何が出来る。この俺にボロボロにやられたクセしてぇ」

「まぁそう騒ぐな。お前の母親だろ? 美咲みさきさんだな……」

「なぜ俺の母親の名を知っている。お前は一体!?」


 すると、母親がフッと目を開けた。しかし、目を開けた瞬間。咳き込み、口元から、紅い血を吹き出した。

「母さん」

「カ…………ト……」

「喋るな。傷に響く」

鳥居とりい。上空の救出カーゴから、ロボットテスターを降ろしてこい」

「なんだぁ。何をする気だ」

「治療をしてやろうっていうんだぁ。カイト君よ!」


 すると、バババギャーンピンク、鳥居とりいいずみが、大型ロボットと共に、地上に降りてくる。そして、俺の波動の前に立った。しかし、俺は、好きだったはずのピンクにさえ、波動をお見舞いした。金色ゴールドの空気層が、ピンクを飲み込む。


「キャアッ!」

「やめたまえ。カイト君。俺たちを信じろ。そして、自分の使命を信じろ」

「うるっさい。お前らを、どうやったら信じられる。俺の母さんを、こんな目に合わせた奴らをどうやって信じろっていうんだよぉ!」

 突然、母さんの握る手に力が入る。そして、俺に、目を向けて口を開いた。口元から血が滴りながらも、必死に何かを伝えようと、しているのがわかった。

栄華えいがさ……ん……を……しんじ……て……カ……イト……」

「母さん、ダメだってぇ! ジッとしてないと」


 腕を取り体を無理矢理起こそうとする母親の肩を持ち寝かせようとする。しかし強引にでも起き上がろうとする母親の姿は、笑顔に満ちていた。そして……。


「信じなさい……父さんを、そ……して……栄華えいがさ……んを……。あなたには……話して……ない事がある……私はもう永くないと思う……怪人で致命的な……傷を受けた。だから……栄華えいがさんと共に立ち上がりなさ……い……」

 母親の姿はまた、甲冑怪人の姿と母親という人間の姿に交互に入れ替わり見えた。

「何を言ってるんだ。そうだぁ! このアンプル! アンプルを打てば、母さんは戻るよ。人間に戻さなきゃ……」


 突然の行動に、俺の波動を抜けて、緑タイツのおっさんが飛び込んできた。このおっさん……、俺の波動を超えれる力があるのか……。

「グググッググッ! 貴様の波動も凄いものだな……しかし、私も元ヒーロー!これぐらい……グアッ!」

 叫びながらも、俺の胸元から出したアンプルを母親に打とうした時、止められた。

「このアンプルは何処で手に入れた。今の美咲みさきさんにはキツすぎる。こんなものを打てば、人間に戻れても、薬性の成分で体が持たんゾォ! グヌヌヌッ!」



こいつ、戦闘の時はバックアップにしていたはずなのに、俺の波動を・・・超えてきた……。

「カ……イト……栄華えいが……さんの言う通りに救出カーゴへ……。そして私の意思を貴方に送るわ……私が人間に戻る前に……」

「母さん……」

「俺たちと一緒に戦え。憎いだろう。大王が! 母親を虜にして、お前自身までも改造された悔しさを大王に打つけてみろ!」

「何を急に。お前らだけじゃ、太刀打ちできないからって。俺を巻き込むな! 俺は愛美まなみちゃんと母さんを救い出したいだけだ!」

「カ……イトお願い……父さんの意思を受け継いで……それ……が……あな……た……の使命……」

「もう母さん黙ってろよ! 救出カーゴには乗っけてもらえるのは、ありがたい。しかし、絶対に回復する保証は、あるのか!」

「今なら、まだ間に合うかも知れん。今こうしてる暇があるならすぐにでも、乗せるべきだカイト君」

「わかった。しかし、俺は、このまま大王の元へ、行く。あいつだけは、許さん!」


 その時、また頭の中に声が響いた。


【あまり調子に乗るなよ? たかが怪人ごときがぁ! お前の母親なんぞ、どうでも良いわ。フハハッ、ギャラギャラ!】


「なっなんだとぉ!」

「どうした?カイト君!」


 ロボットテスターと呼ばれる、ロボットカプセルの中に、母親を抱きかかえのせようとした。母親の口から、新たな怪人本体が、徐々に大きく畝り出ようとしていた。母親が、目を見開き苦しがる。


「ヌグングウグッ!」

「母さん。大王めぇ。ヤメロォ!」


 そう叫んだ瞬間に、俺は、口から吐き出される怪人の、小さな物体を手で掴み取り、強引にでも、母親から引き離そうとした。しかし、余計に苦しむ母親の姿は、首を横に振り乱し、目が突起していく様が見受けられた。それを見て、栄華えいがと呼ばれる緑のおっさんは言い放つ。


「カイト。仕方がない。さっきのアンプルの拡散状を美咲みさきさんに与える!少し荒っぽいが、徐々に怪人への進化は治るだろう……」

「早くしろ。死んでしまうぞ」

「カイト。そのアンプルを貸せ」

 そう言うと栄華えいがは、自分にアンプルを打つ。

「何をしている。お前じゃないだろう」そう叫んだが、栄華えいがは続けた。

「ヒーローたちの血糖をこのアンプルに混ぜる……。荒っぽい療法だが、俺たち、ヒーローの血糖は、常人の数倍以上に強化されている。その血糖を使い、怪人へ変貌する美咲さんに、注入するんだ」

「早くしろ。この怪人、力が結構ある」


 数秒アンプルを栄華えいがが突き刺し、自分の血を注入させたアンプルを母親の腕に刺す。混ざり合った強化されたアンプルで口から吐き出されようとする怪人は、母親の口元へと戻っていった。


「ギュルルルルルルル!」


 可笑しな声を張り上げながら。そして栄華えいがと俺は、母親をテスターロボと呼ばれる装置の中に母親を収めた。


「よぉし。鳥居よ。救出カーゴへ。至急司令室へ退却せよ。俺たちは大王様の元へと行く!」


 そう言った栄華えいがの姿が、可笑しいことに気づいたのは、その数秒後の事だった。


【みっつけたぁ。新しいしもべ……反逆者を追放しろ!】


 俺の頭の中にしゃがれた大王の声が、聞こえた時。緑の栄華えいがと呼ばれるおっさんは、全身、黒ずくめに、ドス黒く光り、モジモジと、体をクネらせたのだった。

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