第28話親子(sideカイト)

 閉鎖された格子がはめられた牢屋前。何の前触れもなく現れた母親。しゃがみ込み、お願いだと俺に言った。その訳を聞こうとした瞬間、母親のから光が放たれた。俺の後ろの壁に、映像として現れたのは、現在、水島市付近で、起きている暴動の様子だった。そこには、英雄ヒデオたちが、ジャッカルへ変貌する人達を救う様子……。

 そしてもう一つ。

 左画面に現れた現在の大王が、何かをしているかの様子。何故こんなものを見せられたかは、次の言葉ですぐに、わかった。


「お願いカイト、大王を止めて。あいつはこの日本を拠点に世界進出を狙っているわ!今人をジャッカルたちに、変貌させることで、人員を確保。そして日本を殲滅。その上、世界に向けてテロ活動を起こそうとしている!」


 俺は、どう言う経緯かさっぱりで、首を斜めに振った。すると母親は続けた。

「ごめんね。今まで私の事を隠していて。でもこれは、あなたと父さんを救い出すための第一歩なの。お願い時間がないの。私の記憶をあなたに渡すから、頭を私に近づけて……」


「どう言う事だよぉ! 何を急に! あんた、大王の手先だろう?」

「……今はこうする他ないの……お願い……」

かすれた声で、今にも泣きそうな弱った母親の声は、頭を俺の額に近づける。すると突然、母親の記憶だろうか。イメージが、俺の頭の中へと、飛び込んできた。

 若き頃の母親の記憶だろうか。母親がこれまで見てきたものが、瞬時に、次々と頭の中に飛び込んできた。

「うっ! なっなんだぁ!これ……」

「カイト! ダメ! ジッとしてて!」

 遠い昔、若き頃の母親の記憶。俺の中へとインプットされていく感覚がした。


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 コンピューター工学を、選考していた母親の学生時代の映像……。そして、WORLDへ入社後、工学博士号を取得。そこで出会った人々の中に、若き日の父親の姿。工学実験によって生み出された医療機器と、ヒーロースーツ。輸入後、父親が装着して、空を飛ぶ姿……。それを支援していた母親。いつしか恋に落ちた感覚の映像。

 そして緑の全身タイツに身を纏う父親の姿。司令塔に立つ父親の姿。出撃する父親の姿。その助手として、戦闘に参加する姿。その戦闘先に、今の大王会長によく似た人物の影。

 ビルを壊し、巨大化する大王会長とよく似た怪獣。それと戦う母親と父親の姿。そして、戦い後救助する機械たち。その後、俺の出産。幼少期の俺と父親の遊ぶ姿。そして家を出て行く父親の姿……。その言葉が飛び込んできた。


「今日、決着をつけなければ、ならない日が来た。お前には迷惑をかけると思うが、カイトを頼む!」


 見慣れない建物から出撃していく父親の姿。その先の地上は燃えていた。今の水島市と見違えるような、ただの荒野が広がっていた。数分後、その荒野の先で、大きな大爆発の光が起きて、包まれるように白く光ったかと思えば、今度は通常の今の水島市が現れた。


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「なっなんだよ? これ……この映像……」

「あなたの父親は、元緑のスーツをまとったヒーローよ!そして大王会長の父親、大王魔王だいおうまおうと戦ったヒーロー!あなたはその血を受け継ぐ子供よ」

 いきなりそんな言葉を投げかけられて、信じることが出来るはずもない。

俺はただ「はぁ?」と口を開けたままだった。そんな俺に母親は続けた。

「あなたの父親を救い出してほしい!今となっては、遅いかもしれないけど、あなたなら出来る!」


 そう言って、母親は胸元からある物を6つ取り出した。それは何かのアンプルのような薬の形をした小さな物だった。

「これは、人間から怪人に変化させられた人を、通常の状態に戻せるアンプル。今のWORLDで開発されている、新しい機械装置。でもまだまだ完全体ではないの。通称AIと呼ばれる人工知能を持った機械装置。これを使うと通常の人間には戻れるけど、ある制約が課せられる」

「どう言う意味? 何でこんなもの」

「私は、大王会長の命により、WORLDへ諜報活動を行っていた。元社員とあれば、入所も簡単だった」

「だからって……」


「私は、父親を探したくて。大王魔王だいおうまおうを倒すことは出来たけど、大王魔王だいおうまおうは、最後にあなたの父親、私の夫の精神を取り込み死んでいったわ。その後、父親であるヒーローは消息不明、でもあるツテから、海外で暗躍しているテロ組織の中にいる事がわかった。日本を牛耳る事が出来なかった大王魔王だいおうまおうは、世界に飛び出したというわけ……父親の体を使ってね……。だから、父親を救ってほしい……。それが、私のお願いでもあるの」

「何で母さん……」項垂れる俺に母親は続けた。

大王魔王だいおうまおうを倒した後、大王製薬として、現会長が製薬会社を大きくしてのし上がってきた。そして、日本を統一するために、まずあなたを監視し始めた。幼少期から私たちの生活は、見張られていたの……。父親のヒーローがいなくなった今、あなたを怪人に変貌させることなんて簡単だったわ。それを止めるべく私は大王会長の指示に従ったけど、結局、私は、あなたを救い出すことすら、出来なかった。だからごめんなさい・・・」


「……母さん……」

「でも、このアンプルを使えば、元の体に戻れる!今は6つだけしか確保できなかったけど、あなたと、彼女の時田さんに使ってほしいの」

「…………」

「私たちの生活は、常に監視付きだったから、懐に飛び込むまでは、何も対処できずいた。だから、今は本当の事を言える。時田さんと一緒に、ココを出てまずは、逃げなさい!」

「……母さんは?母さんはどうするんだよ!これ使えば元に戻れるだろ!?」

そう言うと母親は首を横に振った。

「私は、水島市の暴動の最後の決着を付けに行くわ!」

「決着って! 何を……」


「今は、大王の命に従うしかないの。ゴメンなさい……。じゃあ! 頑張って父親を救って! そして、自分も大事にしなさい? それから私の記憶を、全てあなたの中へ、随時流し込むわ! 怪人同士の共鳴……これだけは私たちの特権ね? じゃあ!」


 そう言うと、母親は牢屋から、一瞬で消え去った。ただ6つのAIと呼ばれるアンプルを残して……。

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