第27話夢と現実の狭間で(sideカイト)

 幼少期の頃だ。

 父さんがあまり家に戻らない日々が続いて、キャッチボールができなくて拗ねていたんだ。たまに家に帰ると、父さんは、酒を飲み1階の小さな庭の縁側で、ふて寝している姿しか見なかった。口も余り利かなくて、寂しい思いだったけど、母さんだけは、よく言っていたんだよなぁ……。

「カイト?お父さんは家に帰るとあんなだけど、凄い素晴らしい仕事をしているんだよ?だから、カイトも大きくなったら、お父さんみたいな大きな男になりなさい」って……。

 あの時は、何を言ってるのかさっぱりわからなかった。


 そして夢に出てきた父さん……。

 あの時父さんは言ったんだ。


「悪を退治する組織に入ってる。ごめんなカイト……。いつもひとりぼっちにさせて…」


 ある朝、朝ごはんを食べ終わって、学校の準備をしていた時だった。窓から大きな光が差し込み、一気に天井と壁が吹き飛んだ。

 街中大火災。その時、光が空から降ってきて、現れたのは、大きな大きな怪獣。1階にいた父さんが駆けつけて、俺を担ぎ上げて、怪獣の元へ大ジャンプした。

 届くはずのない距離だったけど、軽々と空を蹴り空を飛び。


 そして怪獣に一撃を喰らわせるために、腕から、大きな衝撃の波が立った。一撃で怪獣を倒したんだ。あの時父さんは言った。


「これがヒーローの役目なんだ」


 それからうちの父さんを尊敬の目で見たんだ。見たんだ。見たんだったよなぁ……。

 長い出張でも、怪獣を倒す父さんを戻ることを……。

でも……いつまで経っても戻らない……。


 そして母さんと二人の生活が続いた。

 俺は中学、高校、そして大学には行けなかったけど、それなりに、小さな薬品会社にも、就職できたと思っていたら……。


「カイト? 起きなさい? 何時だと思ってるの?」


 そうだよ。いつもの様にこう言う風に母親は起こしにくる。いつまで経っても子供のままで俺はダメな男だよなぁって、思いながら起き上がるんだ。


 今も……。


 そして俺は体を起こす。そして母親に言うんだよ。

「早く起こしてよぉ!……」

「えっ!? 嘘だろ? 母さん? 母さーん! 何だよぉ、本当に母さんか?」

 目の前に立っていたのは、三日月の鉄兜に紫のアイシャドーに紅い唇。そして鎧をまとった母親の姿!


「うっうわぁ!」

 再度、俺はびっくりして、体を起こす。鉄格子の部屋だった。一瞬ここはどこだ?と迷った。さっきまでリアルすぎる感覚があったのに、全部夢か。


 夢、本当に? 思わず、頭をかきむしり、人差し指の爪を、噛んだ。

 あれ?何が足りないことに気づかされた。そう言えばさっきまで、俺は、大王の広間にいたはず……。母親が豹変して、甲冑をきた怪人になった姿で……それから……。


 記憶が飛んでる……。なんだっけ?いや、俺……。今鎖に繋がれていない事が第一に変だと感じた。牢屋ではあるが、さっきいた時は、鉄球をつけられて、動けなかったのに。今は動ける。

「どういうことだ?」

 意識もある。しかも普通に牢屋の中は、動ける状態。大王がこんなヘマを、やるはずがない。でも……。母親のあの姿には驚かされた。


「あっ!」思い出した。大王と母親がキスをする瞬間を……。その衝撃が強すぎて俺は意識を失ったことに……。

「フォフォフォフォフォ!」

 あっ……。この感覚。何か俺の中に、もう一つの鼓動が聞こえた。胸の奥深くだったが、口から言葉が出た。フォフォフォ……。俺はやはり怪人かいじんのままなんだ。

「くそっ!」俺は硬い鉄の地面を拳で殴った。何度も何度も血が滲むぐらいに殴り続けた。

「クソォ! クソッ! クソッ! クフォ! フフォ! フフォ! フォフォ! フォフォ!」


 やはり俺は怪人だと思い知らされた。出る言葉が言葉になっていない。20回ぐらい鉄の硬い地面を殴り続けていると、最後の20回目で、通常の人間の力ではありえないが、地面にヒビが入った。はやり……俺のこの力は、怪人かいじん……。だと思い知らされる。


 何も考えられずに、地面に拳を充がいながらうつむいていると、涙が地面に落ちた。悔し涙だった。大王の威厳の前に、何も出来なかった自分に対しての苛立ちさを、滲ませた涙だった。その涙が、突然何かに共鳴する様に、俺の目元へ戻った。そして目の辺りが熱くなり、体全体が、ドンドン燃え上がる様な熱い感覚に陥った。その時だった。足音もなく、誰かが現れた。暗闇の中に、シルエットだけ。

 明らかにそれは母親だとわかった。そして俺は、ここに来て初めて、母親の声を聞くことが出来た。


「カイト? 大丈夫?」

 かすれた声で、かなり小さく囁く声だった。が、それは、明らかに俺が幼き頃から聴き慣れた、優しい母親の声だった。

「……………」

 俺はまだ信じ難かった。

大王に見張られているのではと思うと、声も出なかったが、母親は続けた。


「あなたにお願いがあるの。これはダラシ無い、私が言う事ではないかも知れないけど、さっきはごめんね。あぁする他に、あなたを助ける道はなかったの。ごめんなさい」

 母親は、そう言うとしゃがみ込んだ。手で顔を覆った。その姿は紛れもなく怪人の姿ではなく、人間の姿の母親だった。

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